月: 2010年11月

設計は武術的格闘技?武術的設計論その2

設計の技は状況設定力―臨床対応構想展開力―が問われる

前回に引き続き、矛盾することを矛盾のまま矛盾なく執り行って目的を適える、武術的設計はどう実践されるかについて考えて見ます。設計で知識やノウハウを運用する際、その知識やノウハウそのものが技ではなく、そこでの様々な条件をどう設定し、組み立てるかが設計の技ではないかという仮説の話です。条件選択と組み合わせの加減や順番、応用時期、依頼者や施工者への説明、法律の解釈、状況の読み、問題のしぼり込み、等々、それは現場(実践)対応力というようなものに近いのかもしれません。それならマニュアル化できそうですが、ところがそこにはマニュアル化できない大きな要素を含んでいてそのことについて考えて見ます。

臨床:実践される場はその現場の捉え方から違ってきます。現場というより臨床というべきものです。なぜなら依頼者の状況に対峙し、従来の手法で解決を図ろうとして、容易に解決できない部分が生じたとき、その状況を“仕方がない”と思ったらそこには矛盾は存在しません。設計者によって“しかたない”と割り切るか、“見えないけどなんか方法はあるのでは”と割り切れない違和感を覚えるかどうかで取るべき道は違ってきます。そこに何らかのもうちょっとなんとかし得る方法があるはずだと思えたら、そこは従来のノウハウを踏襲するだけの現場ではなく、最適な有り様に何かが欠けた状況と見る、“臨床”となります。この、もっといいあり様が可能ではと思う直感や臨床認識こそがまずは矛盾を感じさせる力ではないかと思われます。この矛盾を感じ取る能力が技に通じるのだと思われます。

対応:従来の技術や手法だけで単純に解決を図ろうとすれば、できることと,できないことが明快で、矛盾は存在しません。依頼者の提示した状況に従来の手法で十分な対応ができないとき、設計者に、より適切なもの(理想)を求める意識が強く、多様な技が身に付いて(内包して)いて、対象へのやさしいまなざしを持ち得ている場合は、何らかの違和感もしくはより良くなる可能性をかすかに感じさせます。そのような対峙の仕方をする対応をしてこそ臨床と捉えることが可能です。

構想:臨床と捉えられたとき、その臨床状態とそうでない健全状態を想像し、そうでない状態に持っていこうとして何が矛盾や障害となってくるのかを見極めます。その障害を取り除くとか、避けて通るとか、何とか矛盾なく取り扱おうとし、あるいは求めるあり様を実現しようとして、あらゆる方法と仮説の可能性を検討します。それが構想です。

展開:そして矛盾だらけの諸条件の中から糸を通す程度の針の穴のような極わずかな可能性の中からでも、理想に近い状態を適える状況設定と方法を展開していきます。そのもっといいあり様を求めて、それを可能にする状況(条件)設定の技量を、これまであまり技や力と意識せずにやっていたような気がします。でもこれこそが物事を前に進める推進力として最も重要な技量なのではないかと思い直しています。これが武術的設計手法の起承転結である“臨床対応構想展開力”ともいうべきものではないかと勝手に名づけています。

こんなことを小難しくわざわざブログで取り上げたのは、今日、このような力が、単に設計者の世界だけではなく、色んな分野に通じるものではないかと思ったからです。その技量が衰えてきているのに、その衰えを意識せず、十分な状況(条件)設定を考えずに、単なるノウハウや知識を集め、マニュアルや慣習化した従来のシステムだけで何とかしようとし、結果として個々の現場の本来の能力を十分に発揮できず、無駄に消耗させ、全体として社会そのものを脆弱にさせてきているのではないかと思われます。状況設定技量をもう少し意識して見る事も悪くはないのではと思ってのことです。


卓越した技術

マイケルジャクソンのオークションカタログと「UTAU」

先日発売された、坂本龍一と大貫妙子によるアルバム「UTAU」を購入しました。何というか、素晴らしい出来栄えだと思うのですが、何よりピアノ1台と一人の声というシンプルな構成でここまで立体感が出るのかということに感動しました。

このアルバムを聴いて自分にこの感動を与えてくれたものは一体何だろうかと考えた結果、それは音の強弱に対する研ぎ澄まされた感覚を持って演奏されたからだろうという、当たり前と言えば当たり前の結論に帰結しました。坂本龍一より速く指を動かしたり、正確なリズムや強弱で鍵盤を叩いたりすることが出来る人は大勢いるのでしょうが、それを心地よく組み合わせることが出来る人と言うのはそう多くはいないように思えます。大貫妙子の歌も同様に、所謂歌が上手いというタイプでもないように思えるのですが、「ここでこの音をこの音量で出せば良い」という決断が非常に正確で、その音を出す技術は間違いなく持っているのだなと感じ入りました。

こういった技術はマイケルジャクソンのダンスやメッシのフェイント、パンテオンのオクルスなど、さまざまな分野でも同様で、知識や教養が無くてもそこに無い何かを感じさせることが出来、そのような技術こそが卓越した技術と呼べるのではないかと思うのです。そのそしてその技術を享受する能力も私たちには備わっているはずです。

しかしながら、最近は特に3Dシステムやサラウンドシステムなど脳に安易にイメージを与える技術が進歩しているように思え、モノクロ映画にも色を見出し無声映画に音を聴いていた人々に比べると現代人の感受性は日々下がってきているのではないかとも思えます。「新しい技術でこんなことができるようになりました」的なものがあふれていて、私は割とそういうものが好きな部類でもありますが、自分の中にある感受性をなるべく失わないように古い(?)刺激も与え続けていこうと改めて思い直しました。

追記:ちなみにこのアルバム、録音は札幌でした。ひょっとすると自分の生まれ育った場所の空気感が音に出ていて、それがまた琴線に触れたのかもしれません。とにかく、うちの安いステレオでも録音の良さがはっきりわかるくらい音が良いです。


都筑の家 竣工写真-外観-

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都筑の家は、子世帯と親世帯の2世帯住宅です。
敷地は、南東と北西に隣家がありますが、南西側隣地が近所にあるお寺の庭園になっていて視界が開けています。法規上の条件が厳しく、自治体で決まっている建ぺい率・容積率から、総2階建てでも延べ床面積が51坪までしか建てられない。また一種高度の制限で、北側が大きく削られるという条件の敷地でした。

私たちの提案は、「敷地の道路側に駐車スペースを設け、南西側に隣地のお庭を借景とし居間を設け、建物は長方形のシンプルな平面。子世帯と親世帯は、1階と2階で分けて、それぞれにキッチン・洗面室・浴室といった水まわりを設置する。それぞれの生活が適度に感じられるように、玄関は共有。2階には、トンネル状の抜けを設け、居間の開放感を階段・廊下・北側の子供室まで繋ぐ。トンネル状の空間の両脇はプライバシーが確保出来るように壁で囲み、北側には水まわり、南側には寝室を配置する。」というものでした。

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外観はシンプルなモノトーン+軒天の小幅板で構成。
建物の正面は、白い漆喰壁。側面は屋根と同じガルバリウム鋼板たてハゼ葺き。シンメトリックな外見と切妻屋根でシンプルな形ながら、無機質な漆喰の白さと板金の濃いグレーに、有機質な軒天の小幅板をあわせた印象的なファサードになっています。

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南西側の隣地の庭園に向かっては、特に2階はほとんど全面開口部。
開放的なベランダ部分とは対照的に小幅板を横に張って目線をカットした部分は、2階用のデッキ。


聖蹟桜ケ丘の住宅

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聖蹟桜ヶ丘の住宅で地鎮祭を迎えました。敷地は丘を登りきった場所にあり、南東の眼下は大きく眺望が開けています。一段下がった南側の低い敷地に建つ住宅の二階の玄関に、北側の高い敷地から入っていくようになっています。敷地から初めて夕日をみました。いつもよりドラマチックな景色にデッキからの眺望が想像されました。

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DEWS工法 構造実験

今年の2月に耐火実験を行った[DEWS工法]の構造実験の1回目を、昨日行いました。
(DEWS工法の耐火実験については、こちら。)

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昨日の実験は、1枚の壁パネル単体の実験でした。パネル上部に横から荷重をかけていきます。
今後何回かに分けて、色々な部分(壁と床の結合部分・壁と屋根の接合部分等)の構造実験を行います。

耐火実験も今回の構造実験もなのですが、実験は期待する結果になるかハラハラするので、胃には悪そうです。
反面、実験結果を見てあーだこーだと、色々考えるのは楽しいですね。

この実験結果から構造の性能評定を取る予定です。
評定を取れれば、他の設計者や建設会社の方でももっと簡単にこの工法を使うことが出来るようになります。


河口湖の別荘

火遊びをする藤原

先日、藤原が30年程度前に設計した河口湖の別荘の改修工事が終わり、引渡しとなりました。この別荘には元々暖炉があり、改装時にはこれを撤去するかどうかという議論もあったのですが、無事生き残る事が出来ました。今まではあまり使われていなかったようですが、今後は是非使っていただきたいという事で藤原が火付けの実演をして見せました。火の勢いが良いと煙は煙突から出て行くのですが、勢いが落ちてくると煙が昇っていかず部屋に充満する為、燃やしている間は結構まめに薪をメンテナンスしていかなければならないようです。暖炉がずっと使われていなかったせいか、煙を見て消防車がやってくるというハプニングもありましたが、滞りなく消火まで一連の作業を行い建て主さんにも今後使ってもらえる事と思います。

火を見るのは楽しいですが、これから乾燥する季節なので皆様気をつけてください。