卓越した技術

マイケルジャクソンのオークションカタログと「UTAU」

先日発売された、坂本龍一と大貫妙子によるアルバム「UTAU」を購入しました。何というか、素晴らしい出来栄えだと思うのですが、何よりピアノ1台と一人の声というシンプルな構成でここまで立体感が出るのかということに感動しました。

このアルバムを聴いて自分にこの感動を与えてくれたものは一体何だろうかと考えた結果、それは音の強弱に対する研ぎ澄まされた感覚を持って演奏されたからだろうという、当たり前と言えば当たり前の結論に帰結しました。坂本龍一より速く指を動かしたり、正確なリズムや強弱で鍵盤を叩いたりすることが出来る人は大勢いるのでしょうが、それを心地よく組み合わせることが出来る人と言うのはそう多くはいないように思えます。大貫妙子の歌も同様に、所謂歌が上手いというタイプでもないように思えるのですが、「ここでこの音をこの音量で出せば良い」という決断が非常に正確で、その音を出す技術は間違いなく持っているのだなと感じ入りました。

こういった技術はマイケルジャクソンのダンスやメッシのフェイント、パンテオンのオクルスなど、さまざまな分野でも同様で、知識や教養が無くてもそこに無い何かを感じさせることが出来、そのような技術こそが卓越した技術と呼べるのではないかと思うのです。そのそしてその技術を享受する能力も私たちには備わっているはずです。

しかしながら、最近は特に3Dシステムやサラウンドシステムなど脳に安易にイメージを与える技術が進歩しているように思え、モノクロ映画にも色を見出し無声映画に音を聴いていた人々に比べると現代人の感受性は日々下がってきているのではないかとも思えます。「新しい技術でこんなことができるようになりました」的なものがあふれていて、私は割とそういうものが好きな部類でもありますが、自分の中にある感受性をなるべく失わないように古い(?)刺激も与え続けていこうと改めて思い直しました。

追記:ちなみにこのアルバム、録音は札幌でした。ひょっとすると自分の生まれ育った場所の空気感が音に出ていて、それがまた琴線に触れたのかもしれません。とにかく、うちの安いステレオでも録音の良さがはっきりわかるくらい音が良いです。