研究開発業務

開発しようとする動機

私たちは後ろ盾の全くない、数人の小さな一設計事務所です。そんなところがなぜ技術開発のような厄介で身の丈に合わないことまで行っているのか,疑問に思われる方もおられるかもしれません。それは業務案内でも述べたように、設計依頼に応えようとして、それを実現する一般的手法がない場合、状況次第では、なんとか自分たちなりの方法で応えられると思えた時、その方法を見出そうと、始めることが殆どです。また、そのようなことを繰り返えさせられると、これは個別的対応で済ませるべきものではなく、世の中に必要なものだと感じさせられます。これまで研究開発した殆どはそのような切実性や必然性から生じたものです。また、これら開発した手法はその後の設計で、より適切な対応を可能にする有効な手段となり、私たちの多様なノウハウとなっています。開発がうまくいってその後大いに活用しているもの、途中挫折したもの、あるいは未だ開発継続中のものなど色々あります。

最初に開発したもの

そもそも独自に開発らしきことを始めたのは、事務所を設立して、未だ依頼が少ない時期、自分自身が欲しくて、木材の板見本を集めようとした時です。木材について名前は知っているが、実物をこれだと自信もって断定できないコンプレックスから、集めようと考えました。その頃植物見本としての小さなものはありましたが、建築用としては役立ちそうなものがなかったからです。それで建築や家具で使用される木材64種類を,当時の木場の材木屋さんを一軒一軒訪ね歩き、扱っている材種を集めました。友人の設計者達に聞いたら、殆どの者が欲しいというので、いっそ欲しい人には譲ってあげようと思い,建築知識という雑誌の読者欄に、1セット二万五千円で分けてあげる、という案内を出させてもらいました。そうしたら、単に設計者だけでなく、公的研究機関や役所、大学からも申し込みが殺到しました。おかげで、友人設計者達の助けどころか、仕事がなかった自分の家計の大きな助けになりました。そのこともあって、昨年30数年ぶりに、建築知識で販売する、木材の板見本集の監修と材料収集のお手伝いをさせていただきました。

ピラミッドハウス

その後、研究開発に関心を深めたのは、1990年頃、一千万円で30坪の住宅を造ってくれないかと言われ、それを何とかしようとして、ピラミッド型の住宅を造った時です。予算があまりに少ないので、足場等、仮設工事費のない建築を考え、地上のベタ基礎の上で、内外の仕上げまで施した、屋根と壁を兼ね備えた三角形の大きなパネルを制作し,それをつり上げて四隅を合わせて外回り工事完了、という住宅を創りました。そのとき『TJI』という2×4工法用の特殊な材料がありました。簡単に言うと木材のH型鋼材のようなものです。それを600mmピッチのリブにして厚み300mmで、一辺11mの三角形で、内部に品ベニア、外部に耐水合板と鋼板を貼って仕上げた大きなパネルを、一枚ずつ重ねながら4枚製作し、それを吊り上げ、建て込みました。パネルの中が空洞なので一辺11mの大型パネルでもクレーン車で持ち上げることが出来たのです。

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後で確認したら、ちょうどもし中が詰まったパネルであったら、6倍以上の重さになっていました。これは、ちょうど、地球と月の引力の差と同じでした。つまり、もし引力が月と同じであった場合、建築工事の仕方は、当然違ってくるはずと思えたのです。重機を使用できる今日の場合、月の引力で行う工事の状況でも、かつてのやり方でしか行っていないことになると思ったのです。建築の仕方や、有り様が違ってきて当然なのに、それを私たち建築屋は、あまり考えないでいることに気がついたのです。それで軽量部材の可能性に興味を持ち、集成材という材料を空洞にしたら軽量の木材が出来ると考え,そのような梁を,奈良県のトリスミ集成材(株)の工場で製作し、加重実験を行い、通常の木材と耐力はさほど変わらないことを確認しました。ただ、中空集成材は製品化できていません。

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大版集成材うち放し住宅(K邸)

1998年、やはり2000万円で延べ床50坪の、晴耕雨読のための住宅を創りたい、という依頼をうけ、仕上げ工事が無しですむ住宅を考えました。フィンランドから厚み90mm、幅600mm、長さ6mの集成材を個人輸入して、それを構造壁とし、建て並べ、それに床と屋根を設けてお終いという住宅です。接合金物は在来の木造金物を活用しました。結局延べ床70坪の住宅を2800万円程で創りました。それから、集成材という材料に興味を覚え、その後、製作方法を改良しながら日本の集成材を活用して、FM工法、DEWS工法と、数多くの集成材壁式工法の住宅をつくってきましたが、その原点となる家です。

地下室簡易建築システム

地価の高騰で、地上では容積率上、建築ができなく、地下室でしか床面積を確保できない方があって、その工事費が地上部分の倍も要し、何とか安価につくりたいと考えた工法です。工事用の矢板と余掘り及びその搬出埋戻し費用を削減しようとする仕組みの工法です。

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宅配便受け取りボックス付玄関ドア

宅配便の発想こそ最も社会的価値のある開発であると、自分は思っています。創業者小倉昌男氏をとても尊敬しています。以前賃貸の共同住宅を計画中に、今のように留守に対応したサービスがなかったので、ドアに預かる仕組みを取り付けようと考えたことがありました。ドアのフレームの中に外側に子扉を付け、それを開いて、内側の鋼板が蛇腹のように開いてボックスを形成する仕組みです。川口の面川製作所さんに見本を作って、東京都の開催する中小企業の展示会に出展しました。

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吸音小幅板天井

今日、普通に建築すると、床のフローリング、天井と壁の石膏ボードにクロス仕上げ、大きなガラス窓、大型テレビ、オープンキッチン、等々と音を反射する材料、あるいは発生し易い空間や機器で構成された住宅になります。そのため家の中が反響し合って騒々しい住宅になりがちです。子供を始め情緒不安定になりそうな空間です。それで1999年あたりから、なんとか音を吸収することを考えました。床のカーペットはダニ掃除等で嫌われます。壁は様々な物が置かれます。単純に吸音板を貼るだけでは味気ない音響ルームのようになり、意匠設計者としては情けない方法です。操作できるのは天井しかないと考えました。天井仕上げをを板張りにし,その板と板を少し隙間を設けて貼り、そこに音を吸収することを考えました。板の幅、材種、隙間の幅、遮音、内部に入れる吸音材、等々色々考えて現在のようなデザインになっています。現在では吸音性能より、当事務所の住宅の空間デザインの大きな特徴として、多くの方から要望される仕上げ方法になっています。この小幅板天井の手法は、その後障子の隠れ鴨居、フィックスガラスの押さえ桟、空調のリターン口、軒裏では通気層の空気取り入れ口、ブラインドの出し入れ口、等々として様々に隠れた役割を果たしています。

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廃物削減の試み建築その1『鷺宮の家』

私たちの考え方の環境と建築にも記載してあるように、1995年頃から建築が大量の廃材を産出していることが気になり、特に建築の基本材料の石膏ボードが罪深い、何とかならないのかと考え、いっさい石膏ボードを使用しない住宅を考えました。ボードの代わりに杉の板材を使用した住宅です。結果分かったのは、現場が石膏の粉末がなくきれいであったことと、多少の費用増と仕上げの選択肢が限られるということでした。誰にでも向く手法ではなく、関心の高い人向けであると思え、その後望まれる方以外提案していません。

林業活性化住宅(その1)集成材壁式工法の住宅群(FM工法)

通常の建築が建材生産時に大量のエネルギーを消費し、使用後も解体されて大量の廃棄物を産出することは、まぎれもない事実で、そこに何らかの抵抗の提案をする役割は、他のどの職種でもなく、設計者にしかできないと気づき、機会ある毎に,そのようなことに興味を示された方に提案してきました。この住宅群は、大量の木材を使用することで住宅に必要な殆どの性能を満たし、もって林業に貢献し,新建材の使用を少なくすることで生産時の省エネをはかり、自然の循環のサイクルに則って、建築を環境の負荷削減になんとか貢献できる行為にしたいと始めた工法です。工法はコストや施工方法、プレカットの加工方法、使用金物等々建築の度に改良を重ね,進化させてきました。FM工法に限りませんが、新たなことをしようとすると一番難敵は建築基準法です。法律そのものが、そのような新しい工法を前提につくられていませんから、理解されにくく、確認申請で想像以上に苦労します。それでもその地の建築コンクールがあって、応募すれば殆どで賞をいただきました。
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木造耐力壁での準耐火構造外壁性能試験及び国交省認定

防火構造外壁を必要とする地域での在来工法の木造は、外壁だけを防火構造の仕上げにするだけでなく、内壁も石膏ボードを貼る必要が出てきます。それは上記の集成材壁式工法でも同じでした。石膏ボードを貼らずにすまし、かつ外壁の仕上げを省くためには、集成材の壁だけで防火性能を満たすしかなく、木材の燃え代耐火性能(木材がある程度燃えると炭化しそれ以上燃えにくくなり、壁の反対側に燃え移るまでに、必要な時間を要するという性能)を活用して、30分の防火構造、60分の準耐火性能の燃焼試験を公的試験機関で、工法が進化する度に実験し、確かめ、国交省の認定をいくつも得ました。3回目以降は事務所の資金がもたず、他所の団体と連携することで、各種公的助成金を得て、進めることができました。

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林業活性化住宅(その2)集成材壁式工法住宅群(DEWS工法)

集成材壁式工法で、廃棄物を産出させないためには、究極的には、壁等の建築部材を解体後も他の間取りでも使用できるようにすることだ、ということで開発した工法です。解体方法や部分解体も可能にする工法を考えてみました。準耐火構造壁の認定も得ましたが、施工方法が容易でなく、工事者や予算等の条件に恵まれないとなかなか難しく数は増えて行きません。

林業活性化住宅(その3)パネルの開発

集成材の工法は、木材の大量使用による、林業の活性化に貢献するための工法として開発してきました。しかし集成材が価格競争等で必ずしも国産材が使用されているとは限らず、また国産材だとしても、活用できる部分の殆どを使用するわけでなく、生産の合理化のため、使いやすい部分を使用するため、はじかれる材が少なくないことも分かってきました。それと工法が洗練化すればするほど、材の加工が複雑になり、使用金物も多岐に渡ってきて、工事費費が嵩むようになってきました。それもあり、より国産材がダイレクトに使用されることを考えている時、懇意にしているプレカット工場を持つ材木屋さんに、柱角寸法の材がどうしても余りがちになる、それを何とか活用する方法がないかと相談され、角材をパネル化できれば、集成材化する工程も省け、その方が流通ルートも制御し易いということで、一緒にパネル化の開発が始まりかけました。

東日本大震災での応急仮設住宅の提案

その時、懇意にしていた材木屋さんが、震災で工場が流され、開発が途切れかかりましたが。震災で仮設住宅が必要になる。それは数年で廃棄される宿命を持つものだろう。それではまた廃棄物が大量に排出される。再使用できる部材で構成される仮設住宅を提案すべきと考えました。岩手県の提案募集に、盛岡の昭栄建設さんと、柱連結パネルで構成され、ボルトを外せば容易に解体でき、再使用できる工法の建設提案をし、採用され、59戸山田町と宮古市に建設しました。提案した工法は未だ発想段階のもので、実験等で確認しておらず、完成されているとは言えないものでした。この時の納期は敷地を明示されて45日以内に完成引渡しという条件で、日数がなく、走りながら考え、計画しながら、耐力試験で確認し、設計しながら建設した感じでした。でもそのお蔭で、工法開発は、仮設住宅だったということもあり、とんでもないスピードで進んだことになりました。もちろん、集成材壁式工法の開発経験が大きな助けとなったのは言うまでもありません。

側溝から外観(山田町)

林業活性化住宅(その4)仮設集会場

宮古市に建てた仮設住宅、を岩手県森林組合連合会の方が見て、この建て方は森林組合向きの工法だと見抜き、この工法で盛岡市が被災地に寄贈する仮設団地の集会場の工法に推薦していただき、仮設住宅でのパネルの構成を進化させた工法で、山田町、大槌町、陸前高田市に建設支援に参加させていただきました。

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林業活性化住宅(その5)FSU工法住宅

さらに震災に合われた方の再建住宅を格安で創れないものかと相談され、FSU工法の開発が始まりました。釜石地方森林組合の方もやはり同じような考えになっていただき、“森の貯金箱事業”としてともに活動するようになりました。それでまずは実験棟を兼ね、森林組合の事務所と部分的展示住宅を兼ねた建物を建てました。基本的に、材の美醜の違いはあれ、完成後の見た目の構成は同じですが、実は壁の構成の仕方や、パネルの梁や土台との接合方法は各段階で違っています。

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