那須の家

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定年を迎え、農作業もしながらゆっくり生活したいご夫婦のための家です。時々見える二人の子供家族や客のための部屋と三台分の車庫も求められました。
敷地が広すぎて茫漠としており、ただ建てては、所在なげな佇まいになります。そこで茶臼岳から吹き下ろす冷たい風を、敷地の北と東の道路沿いに植えた防風林で保護し、建物もL字型に配して南の庭を囲い、全室から庭全体が見渡せるようにした平屋の住宅です。

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子供家族用の部屋は離れとし、ミニキッチンとトイレ及びシャワーも併設し、母屋とはデッキスペースを介して行き来します。その間に露天風呂用の浴槽だけを設け、天板を載せれば屋外リビングのテーブルにもなります。
東北の角部分は、水平感を強調するために、北と東の軒先の屋根だけを延長させ、中庭的スペースを作り、道路からの緩衝地帯ともしつつ、玄関、居間、洗面所、浴室等からの、眺められるプライベートコートとしています。

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この住宅の建築は、私どもが、地球環境の負荷削減を目指して開発してきたFSU工法で建築しております。
この工法は、柱と同寸の角材をボルトで連結した壁パネルで耐力を構成する木造軸組工法の一種です。

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木材を大量使用し(在来工法の3〜4倍)、しかも使用後の解体部材も転用できる仕組みの工法です。今回は寒さが厳しいためパネル壁の外側に断熱材を貼り、下見板で仕上げています。しかし本来パネルは角材の間に雇い実が組み込まれており、それで水密気密が確保され、内外パネル表しでも発砲系断熱材の30㎜厚と同程度の断熱性能が見込まれ、関東以南では一般的必要性能を満たします。

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それもあって、105角の杉の角材連結パネル内外表しで、30分の耐火試験を経て、国交省の防火構造外壁の認定を取得しています。建築確認の申請も基準法の4号建築物に該当しますが、仕様規定の筋交いでも合板でもないので、許容応力度計算で安全を確認する必要があります。壁の耐力試験は終えていてデータもあり、現在、構造壁の評定を申請していて、今春には取得予定です。(詳しくはこちら「FSU工法」のページを参照下さい。)

被災地沿岸では既にこのFSU工法で、個人の再建住宅として4棟を安価に建てています。しかし那須町では角材の連結パネルの製作が初めてのためか、思った以上に費用が要するということで、断熱の必要のない車庫だけは在来の工法で建築しています。母屋部分の内部は角材連結パネル表しのままですが、離れでは、趣を少し変えようと、パネルに直に土佐和紙を貼っています。

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この工法の住宅の大きな特徴は、壁が木材で充填されてあり空洞がないため、壁の熱容量が大きく、蓄熱性と調湿性能が富んでいて、日々の温・湿度の変化が少なく、結露や過乾燥に悩まされず、理想的居住性能を有していることです。そのため、ヒートポンプ式深夜電力蓄熱基礎暖房とは極めて相性がよく、この工法の住宅では省エネと蓄熱の特性をより効果的に発揮します。

この工法で造る住宅の性能の良さは、東北で再建住宅を作っていてよく分かっていましたが、私共が設計する住宅のテイストを気に入って下さる方には、節もある木が全面に表れた住宅は好まれないこともよく理解していて、私どもからはあまり奨めないできました。しかしこの住宅を設計してみて、木が露になっている量のバランスで雰囲気が全然違って来ることがよく分かりました。視野の中に、同種の木の露な量が占める割合が固まって30%ぐらいだと、多少節のある木があっても、それがむしろおしゃれに見えてきます。当たり前ですが、設計のセンスで見え方を変えられるということを証明できました。しかも柱連結パネルに、直に土佐和紙を貼ることで、調湿機能を損なわず、そのバランス割合も修正可能で、下地の柱の凹凸ラインも、最初から予測していると気になりません。

これまで開発してきた、蓄熱と調湿性に富み、部材の使用後の転用が効きく工法の中で、この工法は最も加工が容易で、どこの地域でも誰でも可能な工法です。今後、地球温暖化と森林整備、二酸化炭素の吸収固定や廃棄物排出、あるいは省エネの蓄熱と調湿機能を気になさる方には、自分の住まいの建築方法として、選択肢に入れて頂いてよい工法と言えます。

那須の家の現場の様子は、ブログ記事でも紹介しています。併せてご覧下さい。

所在地:栃木県那須郡那須町
家族構成:夫婦
構造:木造(FSU工法)平屋建て
敷地面積:2178平米(659坪)
延床面積:181.35平米(54.86坪)
 母屋:28.81坪
 離れ:11.02坪
 車庫:15.03坪
施工:深谷建設
担当:藤原・加藤

 
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