善福寺の家

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今回の家、ブログ等で数多く顔を出させていただいていますので、覚えておられる方も多いかと思います。期せずして多く登場していただいたのにはわけがあります。この事例の敷地状況は法的に厳しく不利な条件が多く、担当スタッフも事務所に来て間もないとか、大震災は起こるはと、不利と思える条件が多かったのに、建て主さんの仁徳のせいもあり、それらの条件を逆手にとれ、克服できた量が多く、不利と思えた状況の割には、良くできたせいかも知れません。ホームページを刷新したこともあり、設計作法の具体的事例説明にもさせていただきたく、説明が長くなっています。

所在地 : 東京都杉並区善福寺
構造規模 : 木造 2階建て + 鉄筋コンクリート造 地下1階
延床面積 : 144.27m2(43.64坪)
設計担当 : 藤原・加藤・大畠
施工 : ODA建設

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道路側外観
接道は、写真の通り、車庫と玄関の入隅の角部分だけです。敷地は道路より2.5m程高く、そのため道路斜線制限が2.5m不利に働いています。そのせいか以前の敷地も、近隣の方も外階段で地盤面まで登っています。北側斜線の高さ規制も、車庫が道路に接していると、その道路面と上の地盤面との平均の水平ラインが規制高さの計測始点となり、現状の地盤面より60㎝ほど低い位置からの規制となり、不利に働きます。そのため建物高さも低く抑えざるをえない計画となりました。将来のバリアーフリーのため、道路から直接入れる玄関にし、基準法上は地下なのに地上階にあるかのように見せています。門までは設けられないので、ドアの位置を少し奥に設け、ポストも玄関ベンチに直接投函するようにし、植栽やポーチスペースを設けることでゆとりを演出し、門がなくても気にならなくしたつもりです。

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東側からの外観
既存の車庫も活用すると、新築の建物までもが既存不適格になってしまうので、壊してあらたに作るしかありませんでした。車庫の奥に残したわずかの地盤面に植栽を植え、車庫の上は客土して芝生を植えています。屋根が折れて見えるのは、不利に働く斜線規制をうまく逃げるためで、北側は庇を殆ど出さず、外壁も見えないこともあり、見た目より、汚れにくさを重視した仕上げにしています。

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玄関と階段
玄関廊下奥には将来用エレベータースペースを設け、現在は収納としています。階段の左側にはシューズインクローゼットがあり、車庫とここだけが地下室で、天井高も2mと高さを抑えるため低くなっています。

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居間からデッキ方向を見る
階段を上がってきて見える最初の光景です。南側の外のデッキは居間と食堂の両側から囲み、食事程度ができるまとまったスペースとし、半屋外空間になっています。手すり壁は道路から見えない程度の高さにし、風が通るようにしています。

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居間及びPCコーナーを見る
前写真の反対方向から見える光景です。PCコーナーの天井が下がって見えるのは、唯一高くできる居間の上の子供室部分の床を80㎝ほど高くし、居間の天井を持ち上げているからです。そうすることで、抑えざるを得なかった二階の階高のせいで、低く見えるPCコーナーの天井も気にならなくなっています。子供室の床が80cm高い分、そのため必要になった階段の下を、エアコンスペースでもあり、風の通り場でもあり、上下で呼び掛けをしたり、気配を感じさせる仕掛けにもしています。

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和室(客室)
ちょっと寝転ぶためや、客人の宿泊、あるいはちょっと改まったことができるためのスペースです。歳時記のちょっとした飾りのできる簡単な床の間も用意しています。床の間脇の収納は少し持ち上げ、下を多目的に使用できるようにしています。

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食堂キッチン
東南の芝生側に面し、冬の朝日が射す食堂です。食卓は以前から使用されていたもので、ちょっと低めです。キッチン後ろの背面カウンターの高さは70cmで、吊戸棚の下端が1.2mで食器戸棚として使いやすいスペースの量を多く確保しています。冷蔵庫も居間からもろ見えでなく、脇に置いています。キッチンはオープンキッチンです。もし流しの手元を隠すカウンターが必要になった場合は、天板の上に設けることも可能です。でも生活を拝見しているととても美しく使用されていて、その必要はなさそうです。

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二階への階段
地下からの階段に光が落ちるように蹴込板がなく段板のみの階段です。段板の向こうに見える建具は将来用エレベータースペース収納です。

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子供室
4.5畳分の広さですが、2室あり、ともに布団や物干し場にもなる、専用のベランダがあります。ベットは大工さん手製の収納付畳ベットです。

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キッチンから眺めた夕方の居間とデッキ
キッチンからは食堂、居間、テレビ、PCコーナー、デッキスペース等殆ど見渡せます。

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PCコーナーから見た夕方の居間、デッキ
二階で最初見える居間の夕方の光景です。次の外からの写真でお分かりのようにブラインドボックスの中に仕掛けた間接照明が、高くなった居間の天井とデッキの天井を照らすようにしています。道路から見えるのは天井面のみで、ブラインドを閉め忘れても気にならないようにしています。

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道路からの夜景
今回の建て主さんは、10年ほど前の内覧会でお会いし、何度か土地探しのアドバイスをさせていただいた方でした。私がどのような価値判断するかをある程度理解していただけていたせいか、あまり要望を細かくされませんでした。それが、厳しい条件下で自分たちにとってとてもよく作用してくれたケースでした。設計作法等で、任せていただいた方がよい家ができる、と言っていますが、それを改めて感じさせられたケースでした。建て主さんのざっくりした要望だけですと、その反映の仕方に裁量幅が広くなり、選択肢が増え、そこの条件の中での最適解探しが楽になり、設計に邁進できるからです。建て主さんが進捗の状況ごとに自分なりの意見を加味をしようとされると、設計者の注意がその把握と反映に向き、優先度のバランスが微妙に崩れ、変節して行き、その都度ごとでは建て主の意図が組み込まれ、建て主さんにはよさそうに思えても、最終的に出来上がったものが本当に望まれた最適解だったのかと問い直してみると、最適解だ、と言えるのか気になるケースがあるからです。
いずれにしろ、毎回今回の事例のような最後に辿り着きたいものです。