小さな試みに大きな可能性を込めて

今日の技術の発展は、社会に飽くなきまでの繁栄と変化をもたらしています。その繁栄を求め、享受しつつ、その広がりと速さ、歪み、格差に戸惑いつつ、その行き着く先へ、言い知れない不安を感じている方も少なくないと思われます。その不安の源は、社会が進む方向の制御に対して自らが関与し得る『量』の絶望的なまでの少なさにあるように思われます。私たちも自分だけで社会に対し何か大きな変化をもたらせるとは思えません。ただ、社会の大きな仕組みの中で、自分の置かれた立場を的確に捉え、そこで起こす行動が社会をどの方向に動かすことになるのかを理解した上で、社会的制御に対して自らの成し得ることの確認から始め、少しでもその不安を和らげたいと考えています。そして私たちと同じ不安を抱えている方々に、自らが関与する建築がどのような可能性を秘めているかを理解して頂き、もしかしたら、自分の小さな行為でも多くの人と考え方を共にすることで、社会の行き着く先に少しは影響を及ぼし得るかもしれない、と思える手掛かりを提示できたらと考えています。そのような思考から、大きな可能性を込めて始めた、我々のほんの小さな一つの試みであるDEWS工法(特許申請中)を紹介いたします。

DEWS(Detachable Wooden Structure)工法は何が可能か

生活や住宅の使用形態の変化が激しい時代に即して、使い手に合わせて建物を変化させていくことが容易な工法です。各部材の寸法と接合方法のルールをあらかじめ統一してあることにより、内部間仕切りだけでなく間取りそのものや外壁ラインまで、あるルールに従って自由に変更出来ます。解体しても廃材を殆ど排出することなく、元の建物の大半の部材を再使用部材として活用し、まったく別の間取りに建て替えることもできます。別敷地への建物ごとの引越しも可能です。建物そのものが不要となった場合も、各部材を必要とする他の方に販売することも可能です。

全体構成

基本的な建築構成部材(壁、床、屋根)を、それぞれに必要な性能を満たしたパネルとし、壁は建て並べ、床は敷き並べ、屋根は掛け並べて、部材同士を個別に接合離脱可能な構造体とした集成材壁式工法です。基礎、外壁、床版、屋根版、内部の壁といった基本の構成部材は独立して取外すことができます。必要な性能は部位により違いますが、パネルは構造強度、仕上がり感、断熱、気密、水密、蓄熱、調湿、遮音、吸音、加工性等を有しています。各部材は最初の建築時から、解体後も再使用されることを前提にあるルールに従った規格寸法で生産されます。部材はボルトやプレートで接合され。建築の組み立てだけでなく、解体、再組み立て、及び各部材の部分交換も容易です。再使用を前提とした基本部材約8割と再使用を考えない2割の消耗部材、及び仕上げ材とで構成されます。外部は部材の接合部に水密と気密を確保する押し縁材をはさみ込み、それを仕上げ材等の取り付け下地あるいは電気配線等の通線経路として活用します。基本部材は2度3度再使用可能で、少なくとも100年以上は使用されることを考えています。

部材

各構成部材の素材は予算に応じて様々なものが考えられ、可能性も広がります。現時点では2階建てまでの戸建の住宅や店舗を想定していて、基礎は鉄骨かプレキャストコンクリート、壁と床版は厚板集成材(厚み10.5~12cm、幅33~45cm、長さ2~6m)、屋根は集成材と断熱材を合板でサンドイッチしたパネルの2種類を考えています。杭基礎の必要な場合は基礎の立ち上がり部分を鉄骨とする方法もあります。屋根と床以外の仕上げは構造材に塗装を施しただけで居住に不都合が無い様に考えています。また将来の基本部材の売却も考え、経年劣化を緩和すべく外装や内装の追加も自由に出来るように取り付け下地は装備しています。

環境の負荷を削減する社会の仕組みとDEWS工法

建築が環境への負荷を削減する社会の仕組みとは、日々行う建築行為が、社会の大きな流れの中で環境負荷削減の方向に確実に作用する役割の一端を担った流通の仕組みです。具体的には、木材の安定した一定量以上の需要を生み出すことで山林育成の働きを支援します。これにより、山林で二酸化炭素を吸収固定した樹木をそのまま自然に朽ちて腐食させ、吸収した二酸化炭素を単純に放出させている状況を改善します。さらに、伐採された木材が長期間使用されることで、その木材が吸収してきた二酸化炭素量が固定延長されます。その間に、新しく植えられた樹木が二酸化炭素を吸収し続けるので、伐採後の使用期間が長いほど全体の二酸化炭素排出量の削減に役立ちます。基本的には伐採されるまでの期間を上回る使用期間とすることが目標となります。加えて、建築方法と構成部材をシンプルにすることで、建設に関わるエネルギーを様々な方向から減少させることが出来ます。この仕組みに則った上でなら、建築行為総体としての環境負荷を削減させる行為に転じさせることが可能になります。この仕組みを実現させるために考えたのが、集成材を加工した独自の部材によるDEWS工法です。その工法と部材を、広く普及し得る価格で供給するために設立された組織が有限会社グルーラムウォールです。

DEWS工法の何が建築のあるべき姿を示しているか

1. 解体、再組み立て、居住しながらの建築部材の部分交換、及び解体部材で以前と異なる間取りに建て替え可能とすることで、時代や生活形態の変化に対応可能。

2. 躯体工事は、事前に加工された部材の組み立てとすることで、建築時や増改築、解体時での廃棄物の排出が少なくなり、作業効率も良く、工期も短くなる。

3. あらかじめ再使用を前提とした規格寸法で生産し、ルールに基づいた接合方法とすることで、解体後も部材をそのまま他の建築に活用でき、解体部材の売買も可能となる。

4. 基本となる部材を再使用部材と下地材などとなる消耗部材とに分けることで、再使用部材を傷めることなく繰り返しの使用と部分交換を可能にし、建物または部材を長期使用し続けることが可能。

5. 集成材を、「木材の多様な建築的特性を併せ持ちつつ、自然木の節や腐朽部分等を事前に除去することで強度のばらつきや狂いやすい弱点を補い、必要な性能を単体で実現可能な材料」と捉え、これを基本部材とすることで、構造躯体に塗装等の簡易な仕上げだけでも支障なく生活が可能建築とし、生産に多くのエネルギーを消費し廃棄物の処理を困難にする新建材等の使用を抑えることが可能。

6. 林業の活性化を促す有効な手段となるよう、木材使用量を在来軸組み工法の数倍とし、木材の生産性を向上させるとともに、建築行為全体における木材の利用率を上げる。また、構造以外の木材活用部を増加させることで間伐材の活用の可能性も増加する。

これらの内容が単体で行われるのではなく、総合的に組み合わせることで、建築が与える環境への負荷を、より一層削減し得る可能性を提示しております。

なぜDEWS工法を開発してきたのか

私たちの設計業務は依頼して頂いた方に合った、世界に一つしかない個別の解答を提示することです。それは単に依頼して頂いた個人のためだけのものではなく、社会に一つの有るべき姿を示すことにもなり、そのことが社会の益にもなるはずだと思い、日々励んでいます。これまでも、これからもその思いは変わりません。それがなぜ、モジュールに縛られた、比較的自由度の低い工法開発を手掛けようとするのか疑問に思われるかも知れません。それは多くの建築を設計してきて、個別的には最良と思われる建築もそれが構成する社会総体としてみた時、必ずしも社会の益になるとは言い切れない様相を呈する時代になってきたからです。

十数年前、不法投棄の取材で東京湾中央防波堤埋め立て処分場と江東区のごみ焼却処分場を見学する機会がありました。(住宅建築誌1994/10)埋め立て処分場では東京中から集めてきた様々な廃棄物が累々と見渡す限り水平線の彼方まで広がっていました。そのゴミの山の上を、白いポリエチレンの買い物袋がゴミを漁るユリカモメと共に無数に宙を舞っていて、この世のものとは思われない光景でした。焼却処分場では幅も奥行きも、薄暗がりのせいもあって、向こう端が見定められないほどの巨大なゴミ投棄槽に、なんとも言えない腐臭の立ち上がる中、これまた深さ数十メートルはあろうと思われる底の見えない暗闇の槽へ収集車が数十台横づけしてごみを次から次と吐き出していきます。奈落の底とはまさにこのようなものかと思われました。

ごみ処分場にはガラスや陶器のように投棄しても地中を汚染する心配のないゴミ用の安定型と、化学物質が含まれていて地中汚染の心配のあるゴミ用の管理型とがあります。管理型のゴミ処理場は、鋼製矢板や不浸透質シート、あるいはコンクリート等で周壁も底も覆われて、雨水で汚染物資が地中汚染をしないようにしてあります。それでも、監理型の処理場は周囲の住民の反対も強く、また費用もかさむため、全国的に不足している状態です。

当時、その管理型の処理場で大半を占めるゴミが建設廃材でした。しかもその多くを占めるのが新建材でした。住宅を求める消費者の意向を先取りした建材メーカーが、丈夫で手入れの要らない、劣化し難くて仕上がりの一様な施工手間の少ない建材などとして、新建材を近代技術で次から次と大量に生みだしていました。その中でも管理型に分類されていて驚いたのが石膏を紙ではさんだ石膏ボードでした。石膏ボードは殆どの建築で壁や天井に大量に使用されている材料です。石膏も紙も土に返せるはずなのになぜ管理型の処分場に捨てなければならないのか不思議でした。それは使用されている紙が再生紙のためで、その再生紙に染み込んでいるインクが土中に捨てると地中汚染になるとのことです。また石膏と紙は接着剤等でくっついているのではなく、水と熱による石膏の化学変化で紙に食いついていて、はがすことが困難なため一緒に投棄するしかないとのことでした。

ショックでした。日夜良かれと思って励んでいる日々の設計行為が、結果、このゴミの山を増大させることに繋がっていたのです。依頼者個人の利益にはなっていたとしても環境には相当の負荷を強いる要因を作り出していたのです。自分だけでなく、依頼主までをも社会に害を与える行為に無自覚に巻き込んでいたのです。このまま設計を生業としていっていいのか考えてしまいました。

近代の科学技術からして紙と石膏をはがす技術はそれほど問題なく出来ることだろうと思われます。しかしそれが経済的に割の合わないことだから消費者がその分の費用を払わないだろうと考えて、環境のためにあるべき方向の技術を開発するより、売れることのために技術の力が向けられてきたのです。科学技術や研究の努力が社会的にどこか違った方向に向けられているような気がしてなりませんでした。そこで、私も石膏ボードをまったく使わず、杉の板材を下地にして廃材の少ない住宅を作る試みをしてみましたが、石膏の切りくずの粉がなく現場はきれいなのですが、小さな住宅の現場で実現するには予算が足りなかったり、依頼主の要求を満たす建築が作りにくかったりと、通常の手法とするには難しいことがわかりました。

そのころから建築業界でもリサイクルが叫ばれはじめ、アルミサッシがその先鞭をつけ業界でも少しずつリサイクル製品が流行りとして出てくるようになりました。しかし中にはリサイクルしても廃棄処分は結局管理型処分場に捨てなければならないものもあり、それではどれだけ意味あるのか新たな疑問も生じさせました。すべての生産行為は、その生産過程と最終処理で如何に環境に負担ないかによって是非が問われるべきではないかという気がします。それが、これからの文明の成熟度のバロメーターになるのではないでしょうか。建築行為が与えている環境的負担には、廃棄物の他にもエネルギー消費による枯渇しつつある化石燃料の消費とそれに伴う二酸化炭素排出があります。現在、新建材といわれる製品の多くは生産過程や輸送過程で大量の燃料か電気を使用します。推奨されるリサイクル製品も、アルミなど大量の電気を消費します。太陽電池でさえ、設置後に採取されるであろう電気の数年分を生産過程で先に消費してしまいます。それだけでなく、建築時の造成や資材の採取で地球の表面を荒らし、自然の形状を変えていきます。このように環境に大きな負荷を与えて出来上がった建築物も、日本の住宅の平均寿命が30年弱という事実が示すように、構造強度に関係なく短い期間で建て替えられています。これは、使用者に建築を永く使いこなしていくという価値観や習慣が少なく、あるいは建築そのものに時代の変化に即応する能力が足りていないことを指し示しています。

今日の科学技術の急進は社会のインフラを大きく変化させ、グローバル化を促進し、大量の情報を提示して、個々人の生活形態を多様に日々変化させています。この状況の中では、設計者も依頼者も建築時に遠い先まで見通した判断は困難になってきています。廃棄物の問題にしろ、エネルギーにしろ、今までの仕組みで建築をし続けていくことにいずれ限界がきます。何より、私たちの無自覚に作る住宅や石膏ボードの紙をはがす技術ではありませんが、社会の前線で日々現実と向き合っている者は、外圧が生じるまで変わろらない各業界の中で、気付かないままどこか意に沿わない方向に引きずられ、報われない努力を注ぐ結果に虚しい想いをさせられることがあるものです。しかし、そのような者こそがそれぞれの立場で在るべき姿を模索し提案していくことが、社会の仕組みの最も適切な方向を示し得るのではないかと考えます。私たち設計者も、現状を批判するだけではなく、個別の対応を期待して依頼して下さる方に対してはもちろん、社会に対しても、「建築を取り巻く大きな仕組み」と「環境への負荷を削減する方向に働く選択肢があるという可能性」の説明と提案を出来るようにしておくべき責務があるのでないかと考え、DEWS工法とその部材を開発してきました。

ここまで読んで頂いた方は、私たちが石膏ボードや新建材を使わずDEWS工法でしか住宅を設計しないのか、と思われるかもしれませんが、最初に述べたように、私たちの業務の成果はどれだけ個別の方の条件に適切かつ創造的に応えられたかだと考えております。私どもの設計事例には、似た傾向の事例も多いかもしれませんが、独特の雰囲気を持つ事例も数多く見受けられると思います。DEWS工法は多様な条件に応える手法の一つであり、社会に対する建築の仕組みを再考して頂く、一つの試案であるとご理解ください。条件が合えば良い住宅となりますが、必ずしもそれが最適の答えにはなりません。私たちは住宅メーカーのように量で勝負出来る立場の職能ではありませんので、工法ありきではなく、その時々で個別の条件に最も適切に応えられる手法を選択することが重要であると考えます。

DEWS工法開発につきましてはグルーラムウォールのサイトも併せてご覧下さい。

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