
FSB工法の概要
FSB工法は私たちが独自に研究開発している工法で、その具体的内容は至って簡単です。建築に関係した人なら誰もが一度や二度思い付いたことがありそうな工法です。概要は柱と同寸同種の無垢の角材を連結して幅45〜130㎝、長さ2.5m前後の壁部材とし、それを土台や桁等の横架材にボルト等で固定して、耐力壁とする木造の在来軸組構法の一種です。角材の表面は平滑に仕上げられていますので、その構造壁の上に別の仕上げを施すことも、そのままで仕上げとすることも可能です。床や屋根も原則パネル化され、ボルト等で解体し易いように構成された工法です。“構法”を“工法”としているのは、単に構造上の架構にとどまらず、仕上げまでの全体のシステムとして考えられているからです。 さらに通常の在来工法と大きく違うのは、壁部材等の取り外しや再取り付けが、部材を殆ど損傷することなく容易にできるように、最初から考えられてあることです。つまり建物の解体や解体材での再組み立て、及び他の建築での再使用を前提とした建築の工法です。私の知る限りでは木造でここまで部材の再使用を前提とした工法は他に知りません。工法の詳細は後ほど詳しく説明するとして、市井の数人程度の小さな設計事務所がなぜこのような、解体や建築部材の再使用を重要視した新たな工法を開発しようとしているのか、それについて述べます。
A.現代の建築(という職業)が抱える業
1.現段階での建築行為は残念ながら環境に負荷を増大させてしまう行為です
建築では、敷地造成での自然の形質損傷だけでなく、建築資材の採取(石油化学製品、セメント製品、鉄やアルミなどの鉱物資源等)で大なり小なり環境及び生態系を損傷します。また建材の生産や輸送のためにエネルギー(化石燃料)を消費し、二酸化炭素を増大させます。さらに建設途中及び建て替えで大量の建設廃材を産出し、その量は、他の産業の比ではありません。しかもその量を少なくする技術開発の能力はあるのに、経済性に見合わないということで遅々として進んでいません。等々、環境に多くの負荷を与え続けてしまいます。木材製品ですら、伐採で生態系を傷め、輸送でエネルギーを消費し、焼却で二酸化炭素を排出してしまいます。
2.日本の木造住宅の平均寿命は30年弱です
住宅の構造は今日の構造基準に則って建てられたものであれば、大きな地震が来たとしても構造上60年以上は十分耐えられます。それなのに寿命が30年ということは、賞を賜ったような住宅でも建て替えられるケースも多くあり、建物の良し悪しや構造上の問題ではなく、生活の変化に対応できないために建て替えられてしまうと考えるしか理由が見当たりません。世代交代もあり、生活様式が多様化した、変化の激しい今日では、住宅の間取や形態等が耐えられるのは30年が限界であると認識せざるを得ないということです。
3.木材は建築資材となるまでに、その生育に約60年を要します
木材が次の住宅の資材となるまで60年要するということは、住宅の寿命が30年の日本では、木材が植林されて住宅資材として生育するまでに、二軒分の木材が焼却され、二酸化炭素を排出していることになります。つまり、仮に一軒の住宅を建てるために60年間二酸化炭素を固定し続けてきた木材を伐採し、その後地に植林したとしても、次の住宅を建てるための木材に生育するまでに、二軒分の二酸化炭素を排出し、一軒分余分に二酸化炭素を増大し続けることになります。つまり仮にいくら日本の木材で建築をつくったとしても、30年で焼却される状況では、結局二酸化炭素を増大させ、環境に負荷を増大させることになります。
4.日本の林業は荒廃し、なりたたなくなっています
海外の伐採と運搬のし易い広大な森林地帯や、環境基準の甘い、もしくは無いに等しい国から産出される木材の価格攻勢にあい、日本では、常に市場での価格競争に晒されている建築生産者は外材の使用に走らざるを得ず、林業が市場だけではなり立っていません。政府の補助金で伐採費用を賄っている現況です。そのため、生態系維持に必要な森林の維持管理が十分にできなく、山林は荒廃しています。戦後まもなく植林された杉などの針葉樹が伐採時期を迎えても、市場では伐採費用すら賄えない価格で取引され、林業の従事者が離職もしくは高齢化し、若い技術者が育たないまま、極端に減少し、生産性は益々低下し、さらに荒廃するという悪循環を繰り返しています。
B.建築設計者としてできること
1.地球誕生の頃は二酸化炭素で覆われ、酸素がなかった?
地球が誕生した頃の大気は、太陽のように高温でヘリュームと水素から成り立っていて、長期間に渡る様々な現象を経て温度低下し、大量に放出された二酸化炭素とアンモニア、及び水蒸気とわずかな窒素で覆われていたようです。酸素は殆ど存在していなかったとのことです。その後とてつもない年月をかけた紆余曲折を経て、炭素が石灰の堆積岩に固定され、水蒸気と紫外線で酸素が生じ、光合成で二酸化炭素から酸素に変換する生命が誕生し、その生命が数多くの変遷を経て化石燃料として炭素を固定し、更なる変遷の後、奇跡的に人類が生存できる環境にようやくなったばかりだと言われています。(ウィキペディア-地球誕生から生命誕生:参照)
2.現代文明の業
その炭素を長い年月をかけて固定してきた地球の化石燃料を、今日の人類は一瞬のような、ほんの短い年月で消費し尽くしつつあります。せっかく人類の生存に適するようになった大気に、再び二酸化炭素を大量に放出させ始めています。又大気を人類生存に適するように包んでいたオゾン層をフロンガス等で破壊しつつあります。資源や森林開発あるいは焼き畑などで、永久凍土として維持して来たツンドラ地帯の森林までをも伐採するようになり、凍土が溶け出しメタンガスや二酸化炭素などを大量発生させ、温暖化をさらに促進させていると言われています。つまり、化石燃料の消費や、開発での二酸化炭素等の温暖化ガスの放出増大は、単に地球温暖化だけでなく、地球の大気を誕生の頃の酸素のなかった状態に後退させる方向に向かわせ、環境に重大な悪影響をもたらすことになります。それゆえ二酸化炭素を固定し続けさせることは今日の文明の重大な急務になっているといえます。
3.3.11東日本大震災の応急仮設住宅つくっていて分かったこと
東日本大震災での被災者用の仮設住宅を建設するという経験の中で感じたことは、社会の普通の機能がきちんと果たされていることの重要性です。被災地の救援に多くのボランティアや自衛隊等が行き、大きな役割を果たされましたが、それとは別に感心したのはコンビニやホームセンターが仮設の店舗をつくり営業をすぐに開始したことです。それによって仮設住宅の建設が大変に助けられました。道路が通っていて車が走れること、車が動くための給油ができること、電気が通じていること、電車が動いていること、何かするために、ものが購入できる店が開いていること、そこにいる者が食事出来ること、等々社会が普通に機能しているということいかに大事かが嫌というほど思い知らされました。そしてその機能を普通に果たし得ているのは、そこに従事している個々人がしっかりと役割を担って働いているからです。

4.働くということは社会での役割を果たすということ
私たちは自分の生活のために働き、報酬を得ようとしますが、その報酬を誰かが支払うということは、それだけ社会の中で何らかの役割を果たし得ていることを意味します。その役割を果たすということが社会にとっても個々人にとっても重要なことです。職業が成立しているのは社会がその役割を欲しており、個々人もその役割を果たすことによって生活を成り立たせ、自己の存在価値を確認できます。大きな機構も全て小さな個人で構成されていて、その個人の認識と働き次第で社会は動いていきます。しかし社会はそこでの役割を果たしてない、あるいは不十分と判断した場合、容赦なく不要や不足の判定を下します。
5.建築の設計者の役割
建築の設計者は、依頼者だけでなく、建築関係の多くの従事者と関わり、建築生産や廃棄のために、依頼者に代わってコントローラー的役割を果たすべき位置に存在しています。そう考えたとき、意識する、しないに関わらず、これまで述べてきた建築の業のような問題や社会の状況にどう対応したかが結果的に露見してしまいます。どう対応するのかの判断が常に迫られているといえます。つまり、今日無自覚に設計してしまうと、意図しないまま、建築の短寿命による建設廃材の増大、二酸化炭素の排出の増大、林業の荒廃等に加担することになり、環境に害を与える業務となってしまいます。他の何かのせいにすることもできるかもしれませんが、自分を騙すことはできません。それでも建築設計という社会的役割を担おうとするからには、建築行為が環境に負荷を増大させるやり方を、負荷を削減する方向に作用する建築の方法を考えるしかありません。
6.私たちは建築設計者として何をしようとするのか
そこでまず、建築で木材を大量に使用されるようにすることで、林業を活性化させる工法を考えます。木材の多様な性能を改めて見直し、性能を引き出し、十分に活用し、化石エネルギーを消費して生産される新建材等が用いられている部位を、可能な限り木材で代用する工法を考えます。次に、30年で建て替えられる住宅を、できるだけ費用対効果が高く、多くの人の多様な使用に応えた間取りや空間とし、増改築や建て替えが容易で、長期間使用が可能な建築とし、建設廃材をできるだけ出さないですむ工法を考えます。それと共に、30年で建て替えられたとしても、解体材を再使用できるようにすることで、建物としては終わっても、解体された部材は使用され続け、木材の二酸化炭素の固定延長が可能な建築の工法を考えることで、二酸化炭素の削減に貢献します。このような建築の工法として、FSB工法を開発しました。社会や建築依頼者で環境の負荷の削減を要望している方に、そのような工法の可能性を提示することで、閉塞的状況に少しでも行動を促す希望というか幻想(イメージ)を提案することが建築設計者の最低限の社会的役割ではないかと考えています。しかしそれで負荷が現実的に即削減していくとは楽観視していません。またあくまで選択肢を提示するだけにとどめ、押し付けるつもりはまったくありません。希望する方のみが採用していくものと考えています。
7.これまでの工法開発の経過
これまで、林業の活性化を促すようにと、木材をあらゆるところに使用することで大量に活用し、新建材をできるだけ使わずにすむ建築の工法として、中断面の集成材を壁式工法的に建て込むFM工法を開発し、17棟程建築提案をしてきました。その後、生活様式の変化に対応することの困難さから、増改築が容易で、解体材を再使用できる工法として、DEWS工法を開発しました。いずれも、市街地でも建てられるようにと、1時間の耐火試験を受け、国交省の準耐火(60分)の外壁としての認定を得ています。DEWS工法は、確認申請を認可しやすくするために建築センターの評定も取得しました。これらの工法開発の経過を経て、FSB工法を開発しました。
8.FSB工法の今後
FM工法もDEWS工法も集成材を使用します。集成材は接着剤使用して大きな断面の木材として工場生産されます。そのためコスト削減に限界があり、また最終的に消却する時には高温で燃焼する必要があります。それで、接着剤を使用しなくてもこれまでのFMやDEWS工法の意図を実現することはできないかと考えられたものがFSB工法です。柱をボルト等で連結することでパネル壁を形成し、集成材パネルの代用品としました。仮設住宅の段階では完成度が未だまだのところがありましたが、その後、盛岡市が寄贈する休憩所を作っていく中で、技術的にはかなりの部分が改良されて、復興住宅の開発では、かなり洗練されかつ多様なデザインの住宅が低価格で提供できるようになりました。現段階での住宅性能や工法の完成度は、FM工法やDEWS工法の方が高いものの、仮設住宅という超ローコストで建築する必要があってFSB工法が開発されたこともあって、国産材の多様な活用や価格的にはこれまでの工法に匹敵する価値あるものになりつつあります。

9.法的整備
市街地での活用と、外部仕上げの自由度確保のため、国交省防火構造認定取得を目指して、連結壁の木部表しのまま何も仕上げせず、耐火実験を2011年1月に予定しています。又構造の許容応力度計算根拠と木造軸組工法の壁倍率認定取得のための構造実験を2011年11月及び2012年春に予定しております。またFSB工法を模倣した工法が出ているとの情報もあり、その違った工法での問題が本工法の誤解や間違った情報の流布となることを避けるために、工法特許を申請しております。
工法概略図説明
FSB工法は未だまだ開発途中にあり進化していますので、現段階では仮設住宅での詳細図を提示します。興味と関心のある方はお問い合わせください。