フランスの建築 10 etc.

quaibranly

さて、フランス建築シリーズも今回で最後、つまりネタが切れたということで、写真が少なく単独での展開に無理を感じた建築たちの紹介とします。終わりの始まりを飾るのはケ・ブランリー美術館の垂直庭園です。美術館自体はJean Nouvelですが、このグロテスクなまでの壁面緑化は植物学アーティスト(?)のPatrick Blancによる作品です。日本では金沢21世紀美術館の緑の橋などを手がけた髪の色まで緑な方です。(髪の色は今は違うかもしれません。)実は今回の旅で一番強烈な印象を持ったのがこの壁で、全く知らなかったからという些細な側面もあるのですが、何が凄いってこれだけ豊かな植物群を育んでおきながら全く土を使っていないらしいのです。つまり軽いわけですね。建築的にはとても有利です。絵的には不自然極まりないのですが、これも自然ということでしょうか。

Palais Royal

さて、次はパレ・ロワイヤルです。ルイ14世が住んだことでこう呼ばれるようになったらしいです。中庭に円柱が並んでいるのが有名ですが、工事中で見れなかったので周囲の回廊を歩きました。回廊沿いは比較的高級な店舗が並んでおり、それぞれのウィンドウも趣向が凝らされていて面白いです。ここまで誰もいないのは深夜に訪れたからで、多分昼間は賑わっていると思います。

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続きましてはパレ・ロワイヤルの目の前にあるルーブルです。ガラスのピラミッドが有名ですが、建物はでかすぎて印象が薄いです。ただ、中庭は非常に気持ちがよく、時間があればのんびり過ごしたい空間でした。開園の頃に行ったので人もまばらで美術鑑賞としては今回の一番の目的だったラ・トゥールの大工ヨセフを誰もいない状態で鑑賞できました。例のモナリザの部屋も人はまばらでしたが、ロープで遠くからしか見れず、しかもガラスが反射するのでちゃんと見たい方は双眼鏡必須です。2枚目はロビーですが、ここを眺めているのも意外と面白かったです。

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Musée d'Art Moderne de la Ville de Paris

美術館続きで、市立近代美術館です。フランス語だとMusée d’Art Moderne de la Ville de Parisととても長い名前です。無料のためか管理状態はとても良いとは言えませんが、デュフィーのばかでかい絵の部屋とマティスのばかでかい絵の部屋があり、これだけでも見に行く価値はあると思います。エッフェル塔からも近いです。中庭を挟んで西側がパレ・ド・トーキョーで、こちらでは現代美術が見れるはずです。シリーズ第二回のマイケルジャクソンへのオマージュのようなものはここのエントランスにありました。東西合わせた建物としての名前はパレ・ド・トーキョーで通っているようです。

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建築と呼べるかはさておき、パリといえばメトロです。映画「パリ・ジュ・テーム」でスティーブ・ブシェミ演じるアメリカ人観光客がぼこぼこにされる場所です。滞在中、かようなシチュエーションにはなりませんでしたが、人が少ないときにはあまり他の人を見ないようにしました。混雑した駅などに行くと、多分そこが一番現地の人との距離が縮まる(物理的に)場所なので、現地人観察には最適です。幸いスリにも会わず、ドアを開けるボタンを押すタイミングもしっかり盗みました。座席は当然のように汚いですが、汚いといえば実はパリ全体が汚いのであまり気にならなかったようです。

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最後の最後になるのはシャルル・ド・ゴール空港です。映画「パリ空港の人々」をご覧になった方なら憶えているかもしれませんが、乗り場に行くまでの動く歩道のある通路が洞窟のようで非常に印象的です。また、中央部のエスカレーターホールのような場所もアミダクジ的面白さがあります。空港というのは多くの場合旅の始まりと終わりに位置するためか、結構記憶に残りやすい場所だと思いますが、過去に訪れた空港の中ではダントツに陰のある空港でした。フランスの空港としてはとても合っていると思います。ただ、お土産を買うにはあまり向いてません。

早いものでこの旅から既に半年以上がたってしまい、細かい記憶はだいぶ薄れてしまいました。しかしながら初めてのヨーロッパということもあり、アメリカやイギリスではあまり感じたことの無い「異国」感は今でも鮮明に思い出されます。また、不便さや不潔さといった、現代社会では負の要素となるものをある程度許容することから生まれる美しさや趣深さというものが、結局は豊かさにも通じるのではないかとも思えました。日本でも「フランス風」なインテリアなどをよく見かけますが、あの特有の居心地の悪さは結局のところ清潔で便利な造りになっているためなのかもしれません。

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metheny

全くの余談ですが、パットメセニーの「オーケストリオン ツアー」に行ってまいりました。今回は全ての楽器を彼がギターでコントロールしてプログラミングした信号で多くの楽器の生演奏を行い、それに合わせてメセニーも演奏するという、一歩引いてみるとちょっとおかしな内容です。生演奏とはいえやはりバンドではないし、実はそれほど期待していなかったのですが、蓋を開けてみると今まで観た中でも2番目くらいに感動的な内容でした。何が凄かったかといえば、その場で演奏しながら様々な楽器に対してプログラミング(=ギターによる信号入力)を行い、それをループさせてその上に即興でメロディーを作っていくのですが、この一連の作業から生み出された高揚感が宗教的というか、何か雲の切れ目から光が降りてくるような錯覚を覚えるほどでした。この音楽手法というのは、非常に構築的であり、詩的であり、ある意味一人だからこそ到達し得た完成度というのを見せ付けられました。建築の世界でいえば、設計者が自ら施工を行うか、鉄筋の折り曲げ方やカンナのかけ方まで指示を出すくらいの細かい管理を行ったようなものではないでしょうか。ただ、決定的に違うのは音は出た瞬間に消えているという点で、この刹那的感動には形として残るものはどれとして敵わないのではないかと思います。すばらしい経験をさせてもらいました。