住まいづくり、うまく転がっていく家、転がらない家

先週、木造の増改築工事で単世帯住宅を二世帯住宅にした建物の完成引渡しがありました。とても喜んでいただけて、設計者にとってはうれしい一日でした。

新築の場合はどういう経過でどういう家になるか、ある程度読めるところがあります。しかし増改築は始まってみて何が起こるかわかりません。まず無事着工できるかどうかもわかりません。増改築は依頼者の意向や要望も最初からは絶対的根拠に乏しく状況次第で変わることがあり、予算も低めに予定していたり、既存建物が建築基準法上不適格で確認が下りなくて途中挫折したり、無事着工しても、あけたら中が図面と違っていたということで問題を抱えることが多いのです。それもあって通常は望んでは受けないようにしています。
 現に、つい最近増改築の相談があり、その既存家屋はかなり複雑な形態をしていて、耐震補強も必要で、引き受ける前に希望に応えられことが可能か、予算通りやるべきことができるか、吟味し、工事屋さんに見積もりまでしていただき、何とか希望に応えられそうでしたが、予定工費費を1割弱オーバーしているということで中止になりました。

 
 今回も一階で生活しながら下屋部分に二階を増築し、残りの二階部分は全面改装して子世帯用にするというものです。建築確認が絶対必要な工事です。以前に一度増築していてそれの検査済み書は取得していませんでした。途中どっかで暗礁に乗り上げてもおかしくないようなケースです。
 設計者の責任で挫折させるわけにはいきませんので、確認申請の事前検討で役所に何度か通い、法的道筋をつけ、工事費の予測のため、普段付き合いのある工務店さんに無理言って概算設計で工事費を出してもらい、少なくとも設計者の技量のせいでの挫折はないようにしてから、正式に依頼をうけてそっとスタートしました。
 ところが、依頼者の依頼の仕方で、まず自分が何とかやってみようという気にさせられ、工事やさんも下見の段階で建て主さんにあってその気になったようです。なかったはずの図面も建て主さんのご尽力とこちらの粘りで何とかクリアーできました。 工事中も二階で騒音が激しく、生活がつらかったはずなのに、苦情を言うどころか“職人さんが暑い中本当によくやってくれてすごい”と喜んでほめてくれるので、職人さんも気をよくして力が入り丁寧な作業になりました。

 確かに既存住宅との違いに目を見張る部分はあるかもしれないのですが、それでも人によっては工期のかなりの遅れや、騒音、仕上げの不具合など、何らかの不満を言ったとしても仕方がないところです。既存の傷つき柱の仕上げなどは難しく、きれいにはいきません。不満を言って当然のところを、慣れたら増改築ならではの味でこのままでもいいかも、と言ってくれました。
 このように建て主さん家族一人一人の言動が状況をいい方向に、いい方向にと転がしていくのです。いつかどっかで何かの問題に突き当たるだろうと覚悟していましたが、誰もが喜べるこんな結果に導かれ、正直感心させられました。