設計では何をするのか・間取り計画で着目と工夫した点「国立の家」

住まいが間取り計画で全く違ってしまうということを、先日の内覧会の報告を兼ねてお話します。

内覧会の終り頃、建て主さんが参考にと、この住宅になる前、他所から提案頂いた別の案を複数見せて頂きました。
それを外郭の間取りだけですが見比べ、是非ではなく、同じ条件でも、解釈や優先順位の付け方で、基本的なことが如何に違ってくるか、比較してみたいと思います。

住宅を建てる前の敷地の様子。北側道路の間口6.6mの敷地で、南北に長く、道路から6m程の奥が1.2m高くなっています。
北側道路の間口6.6mの敷地で、南北に長く、道路から6m程の奥が1.2m高くなっています。

上の図が南隣地の建売住宅を含んだ敷地図で、対象敷地が内覧会の家の敷地です

「設計とは与えられた条件内で最適解を得るための配慮と工夫である」と私たちは考えます。(配慮事項は“私たちの考え方”の▷設計作法(デザインルール)参照

設計条件は、敷地内外の形状や近隣状況、予算、居住者の要望、社会や時代状況、法規制、等々含みます。
プロなら誰が設計しても同じようになるだろう、と思われがちです。しかし実際比べてみると千差万別で、そこに住宅設計の妙味があります。違いを生みだすのは、設計者のスタンスはもちろん、条件内での理想を求める探求の度合い、経験や価値観、嗜好や見識による発想の違い、与条件の解釈の仕方と読み込む深さや優先順位、解決のための工夫等で変わります。
今回内覧会を行った「国立の家」の場合、敷地が段差のある特殊な形状で、嗜好が入りにくい厳しい要素があったので、予算が同じなら、設計は誰がしても似たような案になるのでは、とも思えたのですが。

 

南隣家の二軒の建売住宅用の敷地が整備された写真で、そのブロックの手前がこちらの対象敷地です。 尚、私どもが提案を考える段階ではどんな建物が建つか不明でしたが、南敷地の広さから総二階建てがこちらの境界近くまで寄せて建つだろうということは予測できました。

〇他からの提案1

他の方から提案された3階建て間取りを私どもがスケッチしました。表示は主な部分だけ記載しています。

北側道路側に二台分の駐車場を用意し、土工事に余分な費用をかけないよう、建物を南に寄せて高い地盤に建てる考え方です。南隣家からのプライバシー保護及び道路からのバリアーフリーは諦め、1階に居間食堂と4.5畳のデッキを設け、2階に陽の入るセカンドリビングを配したところが特徴的です。3階に西側天井の下がった小屋裏収納を配し、各室の収納不足を補おうとする案のようです。

〇他の提案2

中庭が欲しいとの建て主の新たな要望に、提案してきたのが下のスケッチの間取りだったようです。

やはり低い土地に二台分の駐車場を設け、建物は数段外階段を上った高い土地に、南隣家から覗かれないよう南境界に寄せた総二階建てのようです。南の陽光は諦め、東側開放のコの字型のデッキスペースを4.5畳分の広さに設け、東から陽光を得る考え方です。この他の設計者にも案を求めても、似たような案だったようです。このように他の案を見ると、陽光を得ようとする優先順位は設計者によって大きく異なることがよく分かります。

〇提案3(私たちの案)

駐車場は、地下扱いの開放された車庫と道路までの縦列駐車で二台分確保した、地下階入りの玄関です。一階は高い地盤にさらに1mほど高い基礎で、地下階にのせた床のレベルと合わせました。東側開放のコの字型の中庭を12,5畳ほど確保し、南側に平屋の客室を寄せ、その屋根越しに冬至の陽光が居間食堂に入る、地下一階地上二階建て案です。

敷地半ばの1.2mの段差に着目し、高い地盤からさらに1.0mほどの高基礎の1階とすることで、地下車庫を含めた三層建ての建築が可能にしました。各階に将来用のエレベータースペースを設け、道路からのバリアーフリーの可能性を残し、南側の客室は平屋にすることで、南隣家の二階からの視線を遮りつつ、冬至の陽光を屋根越しに居間に入れることも可能にしました。

私たちが設計で何をするか・着目と配慮した点と工夫した点

・南隣地に建った建売住宅の二階窓と、北側道路から6m付近の敷地中央部の1mほどの高低差に着目しました。

対象敷地は手前の擁壁ブロック辺りから南が1m程高くなっています。

・建物位置を道路側に寄せて南側に庭を取り、道路レベルに合わせて総3階建てとすると、土の掘削量が多くなりコストアップが予想されます。それと上の写真にある南隣家からプライバシーを確保するためには、南隣家際に5m程の高い目隠し塀を必要とし、コストアップとなります。庭も住まいの一階も殆どが日影になると予想されます。かと言って低い道路側を駐車スペースにし、南の高い敷地に建てると南から陽ざしの入らない住まいになってしまいます。

敷地から北側道路方向の風景で、道路の向こう側も地盤は高くなっていることが見て取れます。

・単純な間取りや階層構成では問題を解消できないと考え、敷地状況や依頼条件および法的規制を考慮して、各スペースの面積配分と理想的全体構成をよく検討して、道路際の駐車スペースの上を活用することとしました。その上で全体予算との関係で空間構成をどうするべきかを検討を重ねていきました。敷地周囲の各住宅の敷地も道路より1.2mほど高くなっていることが見てとれ、そこを上手に活用しようと思いました。

北側の道路向こうに緑が多く借景に活用できそうです。

・建物の壁面の北端まで高い地盤面の擁壁を延長して建物の東西を囲い、平均地盤面を可能な限り高く設定し、車庫スペースを地下室扱いにすることで、三層ではあっても、施工単価アップ仕様となる3階建て建築は回避しました。

駐車スペースは当初予算削減のためシャッターのない開放車庫とし、玄関も地下入りです。車庫の奥行きは上の階の間仕切りに合わせ、高い敷地を少し削って、道路から縦列で二台分を確保しました。上の階の保温のため車庫天井と周囲のコンクリート壁を上から60㎝分の高さを、コンクリートと似た仕上げの素材の断熱材を探して覆ったため、壁の途中に段差が生じています。

・車庫と玄関を地下化することで地下1階、地上2階建てとし、居間、食堂、キッチンは二層目の一階に設けました。

一階は道路より1.2m高い地盤にさらに1m程の高基礎としたレベルにあり、そのため1階の窓が南隣家のアプローチを通る人から覗かれません。その上の2階には個室・寝室・納戸を配しています。建物形態の全体的意匠操作は、敷地形状や法規制に抗わず導かれるままに決めました。

・次に、各階で適切となる位置に階段とその脇に将来用エレベータースペース(バリアーフリー)を確保しました。

階段は風通しの良い、蹴込み板のない階段ととしていて、階段の脇が将来用のエレベータースぺースとして確保したスタディーコーナーで、地階と2階は収納にしています。

・居間と連続する階に、中庭を囲うように客室へ通じる廊下を設け、そこに洗面浴室等の水回りを配しています。

向こうが居間で左が水回りとパントリー、右が中庭で、壁厚を利用して本棚を仕込んでいます。

・客室を一階の南境界に寄せて、居間・食堂との間に中庭を設け、客室の屋根越しに陽光が入る配置にしました。

二層部分の一階は高基礎として、三層部分の二層目にあたる一階レベルに合わせ、客室は平屋にして、屋根を南隣家の窓から居間が見えない、かつ冬至の陽光が屋根越しに入る高さとしています。中庭の広さを3間×3間に満たなかったので、東側を開放したコの字型の中庭とし、その殆どをデッキスペースにし、解放された境界はウッドフェンスを立て、前に植栽を施しました。

・居間と中庭が一体化するように床レベルを合わせ、冬至でも日差しがたっぷり入り、植栽も目に入ってきます。

夏は居間の上の階のベランダで陽射しは遮られ、中には入りません。このように日差しに対するこだわりは、他の計画を拝見すると、設計者によって大きな違いが出る要素かもしれません。

・居間の天井を高めにするため、その上の二階の子供室をその2階レベルより80㎝程持ち上げ、その個室への階段の段板間を透かし、1階と2階の気配の感じ合う仕掛けにしています。

食卓には東の窓から朝日が差し、北側の窓は熱損失が大きいので、小さめのピクチャーウインドウとし、道路向かいの緑を借景にして、暮らしに彩を与えらればいいかと思っています。

・2階は中庭を見下ろすように東から陽光が入る寝室と、南からも陽が入る子供室を配しています。

子供室のベランダから下の中庭を見た情景です。


・要望実現の工夫のため着目と検討工夫及び試行錯誤した事項:地下と2階建て部分の基礎の設定と断熱方法、駐車場のコンクリート打ち放しと断熱材処理、地階の界壁仕上げと断熱仕様、駐車場幅、外壁と開口部の仕様と形状、90㎝有効幅の階段と構成方法、床・壁の仕上げ材、本棚、洗面台と窓採光とメディシン及び収納、駐輪場の囲い壁と屋根中止、雨水の駐車場や中庭の排水の仕方、室外機置場、冷蔵庫置き場、照明計画、表札、宅配ボックス、等々。
・この他、工事費低減のため、構造、仕様、防犯、冷暖房、設備、開口部、等々も試行錯誤しながら見直しました。

・今回の計画を通して次のことに気づかされました。条件の優先順位の付け方で間取りが大きく違ってくることは分かっても、その重要度合いまでは理解できず進めざるを得ない方や、さらに最適なプランにたどり着く手立てがなく諦めざるを得ない方が少なくない、ということです。それと土地探しもさることながら土地を決める時に専門家からのアドバイスがあると、もっと工事費用を軽減できる土地が得られ、適切で豊かな住まいをもう少し容易に得られる可能性がある、ということです。私どもも今後は設計だけでなく、土地を探しと、間取りを丁寧に考えることの大切さ広く理解していただくためにプロとしての支援も考えてみようかと思います。(藤原)