設計作法

設計者には本来、依頼者に要求されなくても、その設計者なりに“建築(住宅)はこのような場合はこう考え、こう処置すべき”という自分を縛っているものがあります。それは法的拘束の範囲外のことなので設計者によってかなり異なっています。その違い、もしくは軽重のかけ方の差が設計者の個性というか味の違いであり、設計者を決める際の重要なファクターになろうかと思います。ここでは、私たちが設計作法として自己に課している事項の中の、計画概要に関連した事項の一部を、当たり前のことも含め、無作為に挙げてみます。選択の参考にして下さい。

コミュニケーションでは

  • 設計の依頼では言葉で表現しきれない要望や切実性が潜んでいることが多く、その意を汲み取り損なわないように努めなければならない。そのためにも各自の意向は出来るだけ家族の誰かを通してではなく、本人から直接伺うようにする。
  • 私たちの提案には一つ一つ理由があり、機能性・美しさ・構造・性能・融通性・費用対効果・作業性・空間の豊さ・防犯・コスト等、微妙なバランスの上に成り立っていることを自覚する。建築主からの変更や追加要望も、その奥にある本質を正しく把握し、その実現でも、小さな満足のためにバランスに歪みが生じないようにする。

全体構成では

  • 外観は当然だが、むしろ内部空間が美しく豊かであることに気を配る。
  • 構造の性能はあらゆるものに優先するが、生活があっての住まいなので、そのために生活をかなり損なうおそれがある場合は、構造、間取りともに内容を再検討し調整をはかる。
  • 提案は敷地、予算、環境、時代等の条件に不利と思われることがあっても、それらを見据え、不利を長所に転化し、最も価値あるものとなるように努める。設計者にとって永続的に責任と関心を持ち続けていくだけ価値あることを確認の上提案する。
  • 建築的何かがあるから良いと言われるより、何も無くても美しく、豊かさを感じさせ、その建主らしい個性が映える空間となるようにする。
  • 眺望等条件に潜んでいる良い特性は貴重な環境資源と考え、必ず住まいの中に織り込む。
  • 住まいの所々に、花や歳時記の飾り物ができるような余裕の空間を設ける。
  • 天井は、内部にしろ軒裏にしろ、機能性に拘束されにくい、デザインが可能な箇所として極めて重要であると考える。
  • 同じ目的の実現のためなら、予算は少なく、構法を単純にし、施工で余計な手間をかけさせない実現の仕方を考える。

間取り計画では

  • 居間及び食堂は住まいのメイン空間と考え、必要な広さを確保し、可能な限り陽光を取り入れつつ覗かれない工夫をし、天井もできれば高く、しかも2階の場合は勾配をとり、変化と落ち着きのある空間にする。
  • 居間食堂を二階に設けたら、それに連続して、外部に家族で食事ができるだけのまとまったバルコニースペース(デッキ)を設ける。そこは外部の部屋と考え、ある程度プライバシーを確保した空間となるようにする。
  • 内部空間は、遠くまで抜けるように連続した空間とし、視線が飛ぶ距離をできるだけ長くとり、様々な状況に対応できる融通性のある間取りとする。
  • 床は原則としてバリアフリーとし、複数階になるときは将来エレベーター設置可能にするか話し合う。但し、玄関の上がり框や和室の床は、格調も考え、必要な段差をしっかりとるべきか吟味する。
  • キッチンは流し台の他、最低限、冷蔵庫、食器戸棚、配膳台、及び建て主が必要とする器機の収納スペースは必ず取る。できれば食品庫も設ける。
  • キッチン以外の部屋でも、洗濯機、洗面台と下着類収納、ベッド、食卓、ソファー、テレビ、ピアノ、パソコン、下足入、洋服入、机等は最初から置く位置を考慮する。
  • テレビ置場は動線や空間に与える影響が大きいので慎重に決める。
  • 階段は緩やかで、暗くなく、廻り階段は90度に3段はつくらない。
  • ドアホン、インターホン、門扉、玄関ドア、表札、ポスト等の取付位置は、防犯や外来の客、新聞配達、セールスのお断り等に矛盾のないようにする。

外溝、植栽計画では

  • 敷地全体の配置では、駐車スペース、自転車置場、アプローチ庭、物干場、バスコート、ごみ置き場用サービスコート等を考え、その上で、庭をできるだけ分散させないでまとめてとるようにする。
  • 植栽、塀、舗装等の外構計画も住まいの重要なデザインの要素として考え、敷地条件や予算が許せば、プライベートな庭、家の住人も通りすがりの人も楽しめる庭、生け垣等についても考慮する。
  • 居間食堂等と連続している半屋外的な部分には、中庭、コの字型庭(デッキ)等を設け、内部空間のように感じられる仕掛けを考え、内外共に豊かにする。
  • 屋外の水栓は、必要な所に必ず設ける。

窓の計画では

  • 居間食堂の壁は、一日を通して、光の色合いの変化が表情に出る採光を考える。
  • 部屋は、陽光を取り入れるようにできるだけ南に大きな窓をとり、それ以外にも小窓を設け通風を考え、かつ、霧除けや夏の陽差し除けの配慮を忘れない。
  • 壁を広くとった方が部屋は落ち着くので、窓の設け方は慎重にし、それでいて明るさを損なわないメリハリのある空間とする。
  • 窓には原則として網戸をつけ、内側には透明ガラスの場合障子又はブラインド又はカーテン等の取り付けを検討する。(格子等は防犯の項参照)
  • ガラスは原則として二重とし、断熱性を考える。
  • 浴室でも可能なら大きい窓を設け、緑が見えるなど気持ちよい空間とする。

太陽対策や温熱環境の計画では

  • 夏の太陽の屋根や窓への射熱は想像以上に大きいので、その対策は冬の断熱や壁などの通常の断熱とは別に考える。
  • 冬はできる限り室内へ陽がさすようにし、夏場は庇等で入りにくくする。
  • 広い部屋や吹抜け等天井の高い空間を持つ家は、輻射熱暖房あるいは床暖房、または深夜電力活用可能なヒートポンプ給湯の蓄熱暖房等で家中に蓄熱させる全体暖房を考慮する。
  • 断熱性能が施工精度の差で損なわれることが生じないように、建物躯体を断熱材で確実に包み込む外断熱もしくはそれに準じた断熱の仕様とし、住まいの中の温度差や時間による変化が少ない住まいとする。
  • 冬の太陽による熱は室内の空気を循環させて家中に蓄熱させ、十分に活用し、夏は通風窓を設け冷房への依存度を減らすなど、省エネを旨とする。
  • 床下換気口は、冬場に大幅な室温低下を招き、夏場には結露をおこしかねないので設けない。但し床下木部の腐食防止のための対策を施す。

細部の計画では

  • 家具の把手はできるだけ手掛けとし、金物等の出っ張りは避ける。
  • 建物には、外観デザインからも外壁の耐候性からも、できるだけ庇を設ける。
  • 揮発性化学物質の出る材料は原則として使用を控え、自然素材を使用する。
  • 照明スイッチは必要な位置にわかりやすくまとめ、可能なら集中させ、点灯しているか判らない灯のスイッチは消し忘れ防止のパイロット付スイッチとする。
  • 雰囲気の大事な空間は間接照明とし、なるべく光源は目に入れないようにする。
  • 設備機器はあまり目立たないところにさりげなく取り付ける。その上、メインの空間ではエアコン等の吹出口はで目立たない配慮をし、かつ風が顔に直接当たらない位置に設ける。

防犯計画では

  • 防犯の方法は、依頼者の意向を汲んでかつ地域の状況に適した対策を考える。全体に矛盾がなく、かつ弱いところが生じないようにする。防犯機器も侵入者が家の中に入ってから機能するものより家に入らせない対策を重視して考える。
  • 1階の開口部は鍵のかかるものとし、シャッターか雨戸もしくは格子を付ける。あるいは防犯ガラスもしくはフィルム貼りガラスとし、敷地内に他人が入り込んでも家の中に侵入しにくい配慮を施す。
  • 地域性を考慮して必要なら敷地内にも他人が入りにくい処置を考慮する。

この他技術的な縛りもありますが、ここでは一般的初期計画段階だけのものにとどめておきます。