その他取組み

個々の業務から派生した普遍性のある建築手法

私たちは通常の設計業務において個々の建物の解決策を探す中で、多くの方に共通すると思われる問題に対して普遍的解決策を見出そうとします。ここに上げた取り組みは、その結果生じた手法の数々です。


FSU工法の普及協力

私どもが開発協力したFSU工法は、建築職人の減少に伴い生産の殆どを工場加工するという、今後の木造建築のあるべき仕組みを先取りした工法といえます。木造建築の関係者には極めて関心が高く、採用を検討してみたいという方のために、工法説明や指導もしくは講演等、普及協力をしています。

2019年ラグビーワールドカップ 釜石スタジアムの木造部分の建築協力

釜石ラグビースタジアム建設に釜石産材を活用しようという地元森林組合の発案で、事務室、検査室、VIP室、放送室、等々の諸室や公衆トイレを木造で作る設計及び監理の協力してきました。

釜石地方森林組合と一緒に始めた森の貯金箱事業の関係から、木造部分トイレ棟と木質諸室の設計ということでお手伝いすることになりました。公衆トイレの一期工事は2018年7月に終了し、こけら落としのイベントやラクビーの試合で使用開始されました。木質諸室の監理は2019年4月に完了し、公衆トイレの二期工事の設計・監理は2019年6月末に完了しました。
これらの施設は地元の釜石産の木材をふんだんに使った復興のシンボルの一部になりました。

信州大学 山岳部部室(OB会寄贈)建築への協力

信州大学の山岳部の13.5坪の部室を、山岳部出身のOB会(山岳学士会)が大学のキャンバス内に、大学の演習林のカラマツを使って建てようとする事業への協力です。

信州大学の山岳部出身の友人がいて、学生当時彼らがプレファブ材等を集めて自力建設した部室が老朽化し、解体の危機にあるということで、再建の話がOB会で出て話が始まったそうです。最初予算がないということで、鉄骨等のプレファブで作る案が出されましたが、プレファブの割に費用も高く、山岳部の部室に鉄骨はどうか、という疑問の声が出たとのことです。友人がたまたま私どもが色々な工法の木造を得意としていることを思い出し、何とか安く木造で作れないかと、打診され、それならと簡単な木造で、カラマツが内外にふんだんに表された建物を提案して、色々紆余曲折があって、結果として協力することになりました。2019年6月の大学の70周年記念事業の一つとなりました。

角材連結壁の準耐火間仕切りの外壁準耐火 追加認定取得

角材を連結した、仕上げなしの構造壁躯体だけで、すでに60分耐火構造間仕切り壁としては取得してある、国交省の準耐火認定の、耐火試験データを活用して、60分構造外壁としても、試験なしで認定を追加取得しました。

柱角材を立て並べた構造外壁の躯体だけでは、これまで30分の防火構造しか取得しておらず、取得してある60分耐火の認定は、躯体表しの壁としては内部間仕切り(耐火区画用)としての認定しか取得していませんでした。取得してある構造外壁の60分の耐火認定は、躯体の上に仕上げを施した状態での認定のため、躯体を表した状態では、外壁として使用できません。耐火試験の内容は外壁でも、間仕切りでも同じなので、一緒に外壁としても認定をして欲しいところでしたが、なぜかそれは法規上認められず、申請し直さないと得られないことになっています。そこで今回も(一社)岩手県建築士事務所協会さんと岩手県森林組合連合会さんと一緒に、躯体表し(仕上げなし)の構造外壁の60分耐火の認定を共同で申請し、認定取得しました。

耐火試験前
耐火試験後試験体を取り出したところ

吸音小幅板天井

吸音小幅板天井
 
天井仕上げを板張りにし、その板と板を少し隙間を設けて貼り、そこに音を吸収することを考えました。板の幅、材種、隙間の幅、遮音、内部に入れる吸音材、等々色々考えて現在のようなデザインになっています。現在では吸音性能より、当事務所の住宅の空間デザインの大きな特徴として、多くの方から要望される仕上げ方法になっています。この小幅板天井の手法は、その後障子の隠れ鴨居、フィックスガラスの押さえ桟、空調のリターン口、軒裏では通気層の空気取り入れ口、ブラインドの出し入れ口、等々として様々に隠れた機能や役割を果たしています。
特殊骨材入りモルタル櫛引仕上げ
障子やサッシ、カーテンレールの鴨居を入れ込むことも可能

今日の建築は、床のフローリング、天井と壁の石膏ボード、大きなガラス窓、大型テレビ、オープンキッチンの洗い物の音、等々と音を反射する材料、あるいは発生し易い機器や空間で構成されます。そのため家中が反響し合い、室内が騒々しく、落ち着かない空間になりがちです。それで1999年あたりから、なんとか音を吸収することを考えました。床にカーペットを敷くのは、ダニ掃除等で嫌われます。壁は様々な物が置かれます。単純に吸音板を貼るだけでは味気ない音響ルームのようになり、意匠設計者としては情けない方法です。操作できるのは天井しかないと考え、そこで吸音しつつ意匠的にも許容できる手法の試行錯誤が始まりました。最初は板状のパーフェクトバリアーを張るなどしてみたり、板の幅を変えるなどしましたが、結局現状の状態が、吸音効果やデザイン及びコスト等、色々な意味で最も完成された状況になっていると思っています。

小校(こあぜ)板張り仕上げ

木を使った外壁といえば、下見板か縦羽目板もしくは縁甲板にすることが多く、昔からの外壁で悪くはないのですが、現代にあったものはないだろうかと、色々試行錯誤して考案された木材の外壁仕上げ材です。

木造の建築で木造らしく、と望まれた場合、外壁も木材で作ろうとすると板貼りと選択肢が限られていて、もう少し量感のある仕上げができないものか、と考えて生み出したものです。色使いを工夫することで、節等の欠点も目立たせない使い方も可能で、他にない、斬新な外壁デザインではないかと思っています。ただ、多少値が張るので、もう少し安価に製作できるよう色々工夫しているところです。

写真内の連棟建物の左棟が小校張り外壁、右棟が下見板張り外壁
デティール
通常の下見板張り仕上げ
小校板張りの開発途中の彫りを深くした段階の仕上げ

ヒートポンプ温水基礎蓄熱暖房

省エネタイプのヒートポンプ方式の基礎蓄熱ヒーターは、エアコンの室外機のようなもので温水を作り、それをベタ基礎のコンクリートに埋め込まれた樹脂配管に通して温め、一日分の熱量を夜間に蓄熱させ、昼放熱します。これは温める暖房から、冷まさない方式の暖房とすることで、スイッチも朝晩ではなく、11月にスイッチをいれ、3月に切る暖房です。2,3日程度の旅行なら、留守の時も温度設定を少し低くしたまま、スイッチをoffにはしません。夏場の冷房として使用することもできます。但し、床下に結露をさせないために、使い方に注意が必要で、そのコントロールに難しいところがあります。
深夜電力なら、電気代の割引があり、さらにヒートポンプの場合は効率がよく、使用電力量がヒーターの場合の1/2~1/3ですみます。現在のところ同じ熱量を必要とする暖房でのランニングコストは最も経済的です。

住宅の暖房方法は住宅の気密や断熱性能の向上と共に色々変遷しています。省エネ志向もあって、南国の開放的家づくりから、北海道のような閉鎖的な空間にする傾向があります。温める暖房から、家全体を蓄熱体にして、終日同一温度に保ち、熱を逃がさないようにする傾向があります。

ヒートポンプ温水基礎蓄熱暖房


LEDテープライト間接照明

細い蛍光管を使って演出していた間接照明を、LEDのテープ状の照明器具を活用して、これまでできにくかった箇所や、建築的処理で大工手間を多く要していた使い方を、殆ど手間をかけずに容易に間接照明ができるようにする手法の開発です。

これまでの間接照明は、最低30㎜φ蛍光管であったため、それを見せず反射光だけを活用しようとすると、使用可能な箇所が限られ、大工さんに設置場所の事前の細工工事をお願いせざる得なく、余計な費用を要していました。テープライトは厚さ7㎜、幅12㎜、長さ自由で、隠すのに容易で、設置にあまり場所を選びません。電源機器の置き場など考えなければならないことも少なくはないですが、様々なところに活用が可能で、照明デザインの手法として色々開発していこうと考えています。

勾配天井の壁際間接照明
カーテンボックスの溝ライン内の間接照明

特殊骨材入りモルタル櫛引仕上げ

特殊骨材入りモルタル櫛引仕上げ

特殊骨材入りモルタル櫛引仕上げは、セメントと砂とを水で捏ねて、鏝で擦り付けた十数ミリ厚のモルタルに、顔料とリシンや特殊な骨材を混入して混ぜ合わせた仕上げ材を1、2ミリ厚に塗り、その後乾き具合を見ながら櫛または剣山のようなもので、横に挽いて表面を小さな波状にした左官仕上げです。顔料で様々な色を出すことができ、櫛で引くことで、内部に混入した砂や骨材の表面が露わになり、自然な土壁の風合いを出すことができます。本来は剣山のようなもので搔き回した、リシン掻き落とし仕上げという、ものを応用したものです。骨材が露わになり、微かな波状に仕上がった壁は、時間帯によって異なる光の加減がその壁に反映されて、ところどころほんの少しながら露わになった骨材が自然な土壁の雰囲気を醸し出し、時間ごとに微妙に味わいが変化して飽きない空間になります。

十数年前までの外壁はモルタルが最も一般的でした。その上に様々な吹付材や顔料を入れたリシン吹付けまたはリシン掻き落とし等の仕上げを施していました。それが今日ではそれに似せた壁を工場で製作し、現場で打ち付けるようなものになってしまいました。塗り壁は水を使うため湿式の外壁と言われ、サイデングは水を使わないので乾式の外壁と言われます。湿式は、手間暇が多くかかるということと、左官職人の経験と技術に出来栄えが左右されるため、一般的にはあまり技量が問われないサイディングが多く使われるようになってきました。私共が使用していた特殊骨材入りモルタル櫛引仕上げは、塗った仕上げ材の乾き加減を見計らって櫛を引きますが、乾き過ぎるとボロボロとカケラになって落ちてきます。また乾いてないと骨材に纏わり付いた衣が骨材を包んだまま隠れた状態で、樹脂を塗ったかのような表情になり、自然な風合いが出ません。骨材に纏わり付いた衣を剥ぎ取り、骨材の一部が露わになるようにするのがコツですが、なかなかうまくいきません。初めて塗られる左官屋さんの場合、何度か試し塗りを見本で繰り返して、勘所を掴んでから、本番に入っていただくようにしてます。

和紙貼りの和室

和室の部屋の視覚的構成要素である柱、長押、廻縁、鴨居、落とし掛け、開口部の枠等の木部を無くし、壁と天井を和紙で包み木部の線を見せずに和室を構成する手法です。

和紙貼りの和室
和紙で包まれた和室。床柱だけ錆丸太で素材感を強調
和紙貼りの和室
同左正面。手前天井は葦べニア

 

通常の和室は真壁づくりで見せる柱(型)と長押や鴨居のラインで構成され、床の間の落とし掛けの高さは、部屋の内法(出入りする鴨居の下端の高さ)より床柱の幅の1~1.5倍ほど高くするなど、部屋の構成方法にあるきまった比例配分にするのが一番美しいといわれる「木割り」寸法というものがあります。確かにその寸法を崩すとどっかおかしくなるところがあります。数寄屋造りでは柱型や長押を殆ど壁で覆い隠す、大壁という手法で処理することも多くなっています。

その木割を意識させずにノンスケールに処理しつつ、壁の構成の比例寸法だけは多少意識しつつ、面構成と素材感で和を感じさせる手法として、和紙貼りの和室を探求しています。時々韓国ドラマの古い民家に、和紙で包んだ部屋が出てくることがあります。伝統的和室を望まれる方でない場合、現代に合った和室として、和紙貼りの和室を極めて行きたいと取り組んでいます。

和紙貼りの和室
手前葦ベニヤ貼りと和紙貼りの天井の段差を利用した間接照明。和紙貼り天井には間接照明が杉柾ベニヤ貼り天井より効果的
和紙貼りの和室
床の間の取れない部屋の壁厚を活用した飾り棚簡易床の間。大壁の和室の壁の和紙貼り

 

丸窓開口部

部屋の中の壁に穴が開いているかのように設けた、フィックスの丸窓で、壁厚の中にブラインドも仕組まれていて視界を遮ることもできます。外部からも丸く見せる場合もあれば、四角に見せる場合もあります。

丸窓開口部
外側が方形の丸窓。はめ殺しガラス

丸窓開口部

 

部屋の方向性からその面の壁には、内部空間的に開口部を設けたくなく、しかし食卓等があり外光が欲しい場合に、光が入って食卓を照らすために設けた穴ような窓です。四角の窓でもいいのですが、四角ですと小窓開口部でしかなく、丸くすることでそこが多少華やかになり、空間にアクセントを与える効果があります。

開口部周り仕上げ巻き込み枠

開口部周り仕上げ巻き込み枠

空間を柔らかく見せたい部屋の開口部や壁のコーナーを付け枠等で壁の見切り縁を設けるのではなく、壁仕上げ材をそのまま巻き込む仕上げ方法です。ボード下地の場合はボードの角に半径15ミリ程度の丸面を取り、その上を壁仕上げします。左官壁ならもちろんですが、クロスの場合も、必要な箇所はそのようにすることがあります。

空間に意図した雰囲気を生み出させるのは、仕上げの色や材質の影響が大きいですが、案外仕上げのエッジの処理でも隠し味のように効いてきます。左官仕上げの場合、質感だけでなく巻き込んだ部分が柔らかい雰囲気を醸し出し、かつ壁の量感を感じさせます。クロスでも、クロスの種類を選ぶことになりますが、左官ほどではありませんが、似たような雰囲気を生み出すことができます。

規格型キッチン組み込みオリジナル厨房

システムキッチンの規格品を活用して、対面式キッチンとして、食道側から流しの中が見えにくいように30㎝ほどの高さと奥行きの手渡しカウンターを設け、奥行き分を流し側のトップカウンターをその分広く使えるようにし、その下を食堂側から収納として使用できるようにしたキッチンです。
タイプは様々あります。いずれの場合も背面収納をキッチンと同じ幅で設けるようにしています。

流しを壁際に設けても、キッチン用の機材の収納が必要であり、その置き場を最初から設けておかないと、引渡し後に空間がごちゃごちゃした空間になり、使いにくいキッチンになります。それならと、流しを食堂側に向けた対面式にし、背面に最初から収納を設けられるようにしたのが、このキッチンの始まりです。

 

RC造屋上通気工法防水

 

RC造屋上通気工法防水

 

ハーフユニットバス組み込み木製板貼り浴室

浴槽の高さまでをユニットバスにしてその上を木製の板を貼って木の香りを楽しめるようにした浴室です。木製の板でなくタイルもしくは大きなガラス窓等にするなど自由な内装にできることが特徴です。

浴室は在来工法で作ったものは、手間や費用をかけた割には、防水上問題が起こりやすく、土台を腐らすなどの事故が多く発生しやすいところです。そこで完璧な防水処置を施したユニットバスにする方が多くなりました。そのユニットバスですと個性的なものを望む方には物足りない思いをされる方多く、かといって在来で作ると、問題が発生しやすいので、防水対策はしてあって自由性もあるものとしてハーフユニットバスを活用しています。ユニットバスに木の板を貼ったものがなく、せっかく戸建にするなら、木の香りを楽しめ、大きな窓を設けられる浴室として、活用しています。

ハーフユニットバス組み込み木製板貼り浴室

 

ハーフユニットバス組み込み木製板貼り浴室

 

RC造屋上通気工法防水

通気工法防水は鉄筋コンクリート(RC)造の屋上の仕上げ方法の一つで、コンクリートスラブ(床)の上に防水を施し、その上に断熱材を敷きアスファルトルーフィングを被せ、その上に広さ30〜45㎝角の、厚さ30〜50㎜のコンクリート平板を15㎜ほど隙間を設けて、かつ40㎜ほど浮かせて敷く仕上げの工法です。目的はコンクリートスラブに日射熱が直接伝わらないように、間に空気層を設けるための処置です。コンクリートを暖めてしまうとその熱は蓄熱され、夜になって室内に放熱し、外よりも蒸し暑い部屋にします。

RC造の屋上の断熱材は、施工がし易いため、通常スラブ(床版)下に敷くことが殆どです。それですと、日射によって温められたコンクリート表面の温度は80度ほどになり、それが蓄熱され、夜スラブ下の断熱材を通してゆっくり放熱してしまいます。それを防ぐには断熱材を余程厚く設ければ別ででしょうが、それよりコンクリートに蓄熱させないことの方が効果的だと考えての処置です。平板と平板の隙間を通って平板下の空気と外が同じ温度であれば、せいぜい30〜40度程度で、その下の断熱材が有効に効いて、コンクリートに蓄熱させる熱量は半減されます。平板は四隅のモルタル団子で浮かしますが、施工の容易な通気工法用の専用足つき平板もあります。

RC造屋上通気工法防水

RC造屋上通気工法防水


木造オリジナル棟換気

木造オリジナル棟換気

夏場の屋根の遮熱を逃すために設ける屋根面の通気用の棟換気(出)口です。雨の侵入を防ぎつつ空気を抵抗少なく出すために、棟に設けた換気用の開口です。

既製品の棟換気口もあるのですが、空気の排出量が少ないので、夏場効果的でないので、確実に排出するようにオリジナルに設けた換気口です。

 

FM工法・DEWS工法(60分準耐火認定 取得済み)

集成材(厚み120㎜×幅0450㎜×長さ2~6m)を立て並べて壁にした工法で、固定は専用の金物に木部を通してピンを打ち込んで固定します。ピンを外せば解体が可能です。FM工法は加工や組み立てが容易なためそれほど手間はかかりません。DEWS工法はFM工法と同様ですが、横架材を外さずに壁だけを取り出す、部分解体が可能ですが、固定金物が複雑になるために、建築に手間がかかります。

新建材をできるだけ使用しないで、環境に負荷をかけずに、林業に貢献する建築を創ろうとして開発した工法です。集成材製作には接着剤が必要で、それなりの工場がないと製作できず、どこでもできるわけではなく、費用もそれなりに要します。

FM工法・DEWS工法
DEWS工法の実例
FM工法・DEWS工法
FM工法の実例