設計者が違うと同じ住戸もこんなに変わる!−間取り編−

最近リフォーム等の相談が多くなり、世間のリフォームの実態が明らかになってきました。不動産会社や家電メーカー等、非建築領域の職種が進出し、よく考えてない提案が平気でされているようです。多くの商品から選ばせる物販の仕方を住戸のリフォームでもしているようです。

リフォームは物販と違って、依頼者の住戸は一つしかなく、提案されたものしか選択肢はありません。リフォームを依頼する方も、他にもっといい提案があるように思いながら、知識も情報も少なく、よく想像できないまま、今よりましになるならいいかと、提案された案で妥協されているようです。設計を生業としている者からすると、最善でないとわかるような提案をする設計者は許されない、と思ってしまいます。ここでは依頼される方もしっかりした目を持っていただきたく、設計者が違うとこうも住戸が違ってしまうと言う事例を取り上げます。許せないという感情が多少入ってしまいますがご容赦ください。

家づくりを考える際、一般的には、専門の設計者にまで頼むまでもない、そんな格好いいものでなくていいから、あるいはどこが良いかも分からないから、工務店付属の担当設計者でいいと考える方が殆どです。私たち設計者からすると、病院に来ているのに、専門の医者でなくて、看護士さんの処置でいいです、と言っているようなものです。特にマンション住戸等の改装では外壁が決まっているため、誰がやっても同じだろう、自分の考える通りにやってくれればそれでいい、と考えがちです。 そこで、設計者がプラスアルファーを提示してくれる職業と考え、自分にはそこまで必要ないと言う方に、それだけではなく、むしろ気付かないマイナスをリカバリーしてくれる職業でもあることを示してみようと思います。

あるマンション住戸の改築を例に、あまりに当たり前のことなので、強調する程のことではない、と普段口にしていなかった設計内容の意図を、敢えて例示しながら、そのことを紹介してみます。美醜や好み等、人によって判断が分かれるデザイン的な要素は一切取り上げず、誰もが必要で当然と思える機能のことだけに限定して比較します。 下の図面は賃貸住宅の401号室と402号室の間取り図です。401号室にオーナーのご子息家族(夫婦と2歳の男の子と一歳に満たない女の子の4人家族)が住んでいます。4人で住むには手狭になり、402号室と壁の一部を刳り抜いて繋げられないかと相談され、構造計算上余裕があるので可能ですと答えました。 floor_plan_a それで、奥さんがある大手の電気店のリフォーム部門の設計者に書いていただいたのが下の間取り図です。 floor_plan_b 気なったところを挙げていきます。

1、子供が男の子と女の子の二人なのに一部屋で過ごさせようとしています。たぶん二部屋必要になったら、リビングを子供室にするか、親の寝室にしようということなのでしょう。そうなるとクローゼットが遠くなります。テレビの置き場はどうなるのでしょうか。

2、間取り図に食卓やテレビ等各家具が、どの程度の大きさのものをどこに置くのか明示されてないので、数年後が気になります。あるいはその時は新しいマンションに引っ越せということなのでしょうか。それはずっと賃貸住宅を転々とする住居の考え方で、それはそれで一つの考え方です。しかし内装をこれだけ全面改装するのですから、それなりに工事費もかかり、出ていくときの復旧費も必要になります。改装に投資するなら長期間使用続けられるように、よく考えないと費用の無駄使いになります。

3、ベランダのある側が南ですが、提示された設計は、日中いない子供室と寝室に長時間陽射しを入れて、滞在時間の長いダイニングには朝の短時間しか陽が入りません。リビングが寝室か子供室になったら、その度合いはさらに増します。その場合さらに狭いダイニングのみになり、キッチンも北側の小窓しかありません。最近、年頃になった子供が自分の部屋に閉じこもってばかりいる、とよく問題にされます。なのに、このように子供室は広く陽当たりの良い部屋で籠りたくなる部屋にし、家族皆が居てほしいダイニングは、狭く居心地良いとは思えない空間でいいのか気になります。

4、キッチンの幅も狭く、子供が年頃になり食欲旺盛な年代になっても、厨房関係の配膳台、食器戸棚、食器乾燥機(棚)電子レンジ、炊飯器、ポット、トースター、ミキサー、等々の置き場は十分確保されてあるのか不安です。 5、当面、親と子供たちは布団を並べて寝ているというのに、大きいクローゼットはあっても押入れはクローゼットの奥にしか置きようがありません。 6、キッチンの幅や洗面化粧台の幅は狭い割には、これから工事しようというのに、その脇に中途半端な埃溜まりスペースが余ったようにあります。下足入れの長さの少なさも子供が大きくなった時を考えると、靴の収納量は足りるのでしょうか。玄関から見えるトイレの入り口で、大きくもできず不安になります。

しかし、確かに他の人が作った計画はいかようにも批評できます。それで対案として考えられるのが下の間取り図です。 floor_plan_c 上の案で気になったところは殆ど何とか解決しています。 1、子供室は一人4.5条と多少小さくなりましたが、将来クローゼット等で仕切り、独立した二室にできます。子供が小さく一緒に寝ている間は子供室二部屋分を寝室にして、予定の寝室は子供の遊び場や泊まり客の寝室にもできます。そのためウオークインクローゼットはどちらからも使えるように廊下が入り口になっています。子供室の押し入れは奥行きを少し深くして夏冬入れ替えられるように、二列のクローゼットにもできるようにしています。寝室用の押入れは居間との境の廊下に面してあり、どこの部屋にも運べるようにしています。 2、リビングとダイニングはもっとも長い時間、陽射しが入る位置に、広くはありませんが、食卓、ソファー、テレビ等それぞれ必要なスペースを確保してあります。 3、その上で、キッチンは最も規格品の種類の多い幅が250㎝のタイプの対面式で、しかも奥行き30㎝、高さ1.15㎝のカウンターを設け、その下30㎝分流し台の奥行を広くしてあり、見せたくない洗剤等をカウンターで隠して置けます。その下は食堂側から使用できる食器棚になっています。食卓も6人がけがゆったりおくことができます。テレビも十分距離をとったソファーからだけでなく、キッチン仕事しながら一緒に観ることができます。キッチン後ろに、高さが70㎝のが配膳台収納、上が食器用の吊戸棚で、間の50㎝の空間に電子レンジ等、様々な機器類を置けるようにしてあります。流しの排水は、西側の壁際の床を必要な分だけ持ち上げ、浴室下を通してパイプスペースの縦管に繋げます。レンジフードからの排気も同様に既存のダクトに繋げます。 4、洗面台も少し広めのものにし、洗濯機との間に仕切り板を腰高に設けることで、洗濯機が気にならなくなり、後ろにはタオルや下着等の洗面所専用の収納も設けてあります。玄関からの廊下に本棚や予備の収納を置くスペースを設けてあります。場合によってはその収納を上下だけにし、その間をパソコンを置くスペースにすることもできます。

これらは、依頼者に要求されなくても、考慮に入れるべき設計作法の一部です。 好みなど、主観の入らない間取りだけでもこれだけの違いがあります。費用増もせいぜい401号室と402号室を繋ぐ開口部が一つ多くなった分ぐらいかと思われます。キッチン周りを充実させてある分も多少増になるかもしれませんが、不要であればやらないでも済ますこともできます。むしろ食卓の西側の壁際に奥行30センチほどの引き戸付きの棚を食卓の高さに合わせて置くと、若干の費用増にはなりますが、より充実し余裕も生まれ、パソコンコーナーにもなります。

設計者と一緒に計画するということは、その他にも現状で結露の有無によっては断熱性能の向上、照明の内容やスイッチの位置、設備機器の機能内容やデザイン、部屋の色や素材構成、空間デザイン、様々な選択肢を提案してもらい、検討しながら進められるということです。たとえば空間デザインの要素になりますが、提案したリビングダイニングの東西の壁は、何もおかずに広く大きな壁にしてあります。それによってその空間に落ち着きとゆったり感を生み出すはずです。でもこのようなことは、殆どの方は気が付かないと思われます。大手のリフォーム部門で提案された間取りで暮らした人だけが、その違いに気が付くのかもしれません。設計者としては寂しいことです。 さらに、気が付かないかもしれませんが、提案した間取りですと、工事期間中、401号室にそのまま住み続けながら、402号室の工事ができ、402号室の工事が終わったら、そちらに引っ越して、401号室を工事し、工事期間中、他に部屋を借りる必要がありません。その費用分を設計料にあててもお釣りがきます。設計を生業する者なら誰もがそこまで考えることです。