今回は約一年間、杉板の多様な表面処理をした材を、三様の環境下で暴露試験をしてきた結果の最終報告です。前回までの暴露試験報告では三種の環境下で別々に撮った写真であったため、色合いや表情の違いを正確に伝えられていませんでした。きづかい運動 始動 | 今回は最後なので、全ての試験体を同一の光が当たる環境下で撮った写真で公開します。前回までの報告と比較しながらご覧ください。

暴露試験を始めた動機は、初回の木づかい始動で掲載した、ある製材所の端に放置されていた杉板材の表面がとても魅力的だったのを見て、その輝きをどうしたら得られるかを探ってみたくなったからです。ネットで調べれば、木材の結合成分でもある「リグニン」が紫外線を吸収で分解・変性し、分解されたリグニン成分が雨水によって洗い流され、表面の細胞構造である白いセルロースだけでスカスカの状態になり、そこに 大気中の埃やチリ、排気ガスやカビがしっかり付着してシルバーグレー色に見えるようになる(銀化)、とあります。

理論的にはそのようですが、多様な木材の性能を活用した使い方を提案している設計者としては、その中で木材の表面処理や外部環境の違いで、木材の持つ自己被膜形成性能(抽出成分)が、現実的にどのような経年変化を見せるかも探る意味もありました。材の木表と木裏の場合、表面処理を鋸肌とプレーナー掛けにした場合、塗装をした場合、等々でどう差が出るか試しています。設置環境は軒下に放置した場合、同じ軒下で、朝晩十数分水浸しをした場合、一日中天日の下で、雨曝しの場合の三種類の環境下でどう変化するかを見るため始めました。全て板材は18㎜厚の杉材です。試験体の板の種類や塗装種類は必要と思われるものをかなり直観的に決めました。

終日天日のもと雨晒しの環境下での試験体Aです。向かって左から①白太材の鋸目肌で木表を晒し、②白太材の鋸目肌で木裏を晒し、③白太材プレーナー掛け肌の木表を晒し、④白太材のプレーナー掛け肌の木裏を晒し、⑤赤身材の鋸目肌の木表を晒し、⑥赤身材プレーナー掛け肌の木表を晒し、⑦白太材の鋸目肌の木表にウッドロングエコ塗装(鉄粉入り)板を晒し、⑧白太材のプレーナー掛け肌の木表の上部にキシラデコールの透明のやすらぎ、下部に柿渋を一回塗装の試験体、⑨赤身材の木表の鋸目肌板の上部にノンロットのライトグレーとブルーグレー、下部にキシラデコールのシルバーグレー塗装の試験体、⑩赤身材の木裏の鋸目肌板の上部にライトグレーとブルーグレー、下にキシラデコールのシルバーグレー塗装の試験体、⑪赤身材の木表のプレーナー掛け肌の無塗装試験体、⑫赤身材の木表の鋸目肌の無塗装試験体です。試験体B、Cとも、⑪と⑫には本来柾目材を試験体にすべきところですが、柾目材は高価なため量を多く必要とする外壁に、現実には使わないと思い、芯材に近い板目材を試験体としました。
半年ほどで最も早くグレー色化が始まりました。

軒下設置で朝晩に十数分水浸しをした場合の試験体Bです。
①から⑧までは雨晒しの場合と同じ状態の試験体で、⑨赤身材の木表プレーナー掛け肌板の上部にやすらぎ、下部に柿渋塗装材、⑩赤身材の木裏の鋸目肌板の上部にやすらぎ、下部に柿渋を一回塗、⑪赤身材木表プレーナー掛け無塗装の試験体、⑫赤身材の木表の鋸目肌の無塗装試験体です。
毎日朝晩十数分の水浸しで杉板が常に洗われるのか塗装の色も早く薄くなり、木の肌の色に近いまま長く続いていましたが少しづつグレー色化はしていきました。

軒下設置で放置した場合の試験体Cです。
試験体は水浸し材と同様の材の試験体です。材の色合いが経年変化でグレーがかって来るのは見て取れましたが、試験体ABC共すべて水平に近く設置したため、試験体AとBは水で流されるのに、Cは、写真を拡大してみればわかるように、水分の影響が少なく、その痕跡として色合いは他と比べて褐色化していて、埃やチリ等々が板材の表面に芥として付着して、流されることなくいつまでも残っています。二回目頃の報告の色や表情と比較してみるとよく分かります。きづかい運動 始動 その2 | (株)結設計|東京・建築家|住宅・建築設計事務所
三種の環境下での杉板暴露試験で分かったこと
- 設置環境の違いから、水分と光が色合いに大きく影響していることが分かります。ある木材屋さんに、木材を自然の中で乾燥させるには多少の水を掛けた方が早まると教えられました。ある程度水分が木材に染み込むと、木材の中の水分や抽出成分も呼び水のように引き出すのでしょうか。AIの解説を参考に推察すると、試験体AとBは、木材繊維を結合するリグニンが紫外線で変性分解し、水分を得て、溶けて流され、表面(0.2㎜)は木材繊維のセルロースになって白色化し、結合成分(リグニン)がないためスカスカの状態になり、そこに空気中の埃やチリが染み込み付着し、カビ等は根を張り、グレー色になるようです。
- 試験体Bは水に浸すことでリグニンだけでなく、付着物も流され、セルロースの白い状態が長く続き、グレー色化はゆっくりでした。それでも少しづつグレー色化が進むのは溶け出たリグニンも付着したリグニンも完全には流れ落ちないためなのかと思います。
- 雨晒しの試験体Aの場合の雨水は表面を殆ど流れてしまい、染み込む水分量はそれほど多くないため、紫外線で分解されたリグニンもそれに見合った量だけしか流れ出されず、付着した埃やチリ、及び根を張ったカビ等もそれほどには流し出せないため、グレー色の度合いが強くなったと思われます。
- 試験体Cを観察するとBと同じ量の紫外線を浴びているはずですが、直接雨水がかからないので、紫外線で分解されたリグニンもそれほど溶け出さず残っているはずで、溶け出ないリグニンは、AIの理屈では褐色を帯びて黒ずんでいくとあります。だとするとセルロースもさほどスカスカにはならず、付着して残る芥の量も多くないのか、試験体Bほど白色化もグレー色化もせず、いずれより褐色化するはずです。この辺は試験期間が一年と短かったこともあり、観察結果の報告としての結論とまではまだ言えないかもしれません。
- 木材の木表木裏の違いは、経年変化にはあまり作用しないように見て取れます。強いて上げれば、もしかしたら木裏かつプレーナー掛け肌の方が、薄板の場合割れを多少誘引し易いのかもしれません。可能なら厚めの板材にした方が割れの入る確率は少なそうです。
- 鋸目肌とプレーナー掛けの違いも自然な経年変化ではあまり差がないですが、塗装した場合は、鋸目肌の方が塗料の染みこみ量が多くなり、その分塗装効果が差となり、白太材赤身材如何に関係なく色合いの変化として現れるようです。
- 白太材と赤身材ではさほど差はないようですが、写真を拡大してみると、赤身材の方が木の抽出成分が多いのか何となく、自己形成被膜を形成する度合いが高いようで、テカリがある気がします。柾目と白太の板目の差なら、もっとその症状が出たかもしれませんが、現実的に柾目板を大量使用する外壁に使うことはあまり考えられず、白太と赤身の材で試験してみました。
- ウッドロングエコ(鉄分)の塗装を施した材は、前回以前のブログ報告を見て頂ければわかるように、グレーというより黒に近いグレーのような色に、早めに変化しました。朝晩に水浸しした材は、塗装材が溶け出し、水が洗い流す作用となり、効果を薄めたようです。そのせいか最初に染み込んだ木目部分が色が濃く際立っています。そのことで木目の部分が塗装材を多く吸い込むことが分りました。針葉樹系の材に色つきの浸透性塗料を塗った場合、よく斑になることが多いのはそのためのようです。
- 柿渋塗装は、軒下では色が残り続けましたが、水に溶けやすいようで雨や水浸しの試験体は半年ほどで塗装が落ちていきました。逆にキシラデコールの透明のやすらぎは、白太赤身関係なく水分をはじく作用があり、塗装が効いている限り材のもともとの色を長引かせる働きがあるようです。
- 雨晒しの試験体で試みた塗装の、ノンロットのライトグレーとブルーグレー、及びキシラデコールのシルバーグレーは写真で見て取れるように、水分を弾く作用がそれなりに塗装色の効果を保つようです。これらの塗装色で試験したのには大した理由はなく、たまたま無塗装材の自然な経年変化で予想されるグレーに近い塗装見本が身直にあったからです。無塗装材の経年変化する色を人工的に先取りして着色し、かつ濃い色だとどうなるか試したものです。塗料が水と紫外線を弾き、経年変化を妨げていることは確かのようです。


- 木材の性質に即して、上記写真とは別に、ある杉板を貼った外壁の経年変化の色合いを観察してみました。総二階建ての二階の屋根の出が1mほどあって、一階の土台まで木材の木肌に近い色の浸透性植物塗料を塗ってふき取った杉板の十数年後の色は、強いて色名を付けると、外壁の屋根に近い部分は灰褐色に、一階土台に近い部分はグレー色に微妙にグラデーションが付き、よく雨が当たる箇所は白っぽいグレーに、雨が当たらなさそうな箇所は黒ずんだ褐色になっているように見えました。
- 色合いに関して、経年変化後のグレーにしたいという考えで、無塗装のまま外壁材として貼った場合、木材の木肌色から一年程で、グレー色に変化させることは可能のようです。軒下で雨が当たらない場合、経年変化で褐色化し、グレーではなく、黒ずんでいくことが予想されます。適度に雨で表面のリグニンが流れるような場所だと、経年変化は早く進みそうです。風等で雨が均一に当たらないところは、埃やカビ或いは排気ガス等の影響等が強く出て、斑になる懸念があります。斑を避けるには塗料を最初から塗布しておいた方が賢明かもしれません。
以上が杉板材の一年間の暴露試験結果の感想報告です。参考になれば幸いです。

