投稿者: 藤原昭夫

西伊豆の平屋建て

西伊豆の土肥に、平屋建ての家ができました。

ブログも、去年暮れからこれまで忙しく、更新されていませんでした。途中経過の掲載もサボっていたわけではなく、なぜか他の実務に振り回されて、引き渡しの今になってしまいました。植栽も家具も未だですが、ちゃんとした写真での事例紹介の前に少しだけ紹介します。

土肥には、30年ほど前に設計した家があり、それはカーグラフィックという雑誌の編集者が表紙用の風景を探していて、それに取り上げられた家で、3年ほど前にリフォームをし、建て主さんがそれを見てこのような間取りがいいということで決まった家です。西風の強く吹く地域で、玄関は煽られないように、既製の引き戸でということでしたので、そのまま使っては味気ないので、わずかに周囲に木の縁を付けることで、手作り感を出しました。

敷地は自分の家の敷地と隣の100年前に建てられた家を購入した敷地と合算したので、平屋建てにしても十分全室南向きにできました。ただし、接道する北側の道路レベルと南の庭側の敷地レベルに1m程差があり、南側バルコニーには木製手すりを付け、4段ほど降りて庭にでます。内部の壁は紙クロスですが、壁面の角をそれなりの下地処理をすることで

左官壁のように見せています。居間食堂は恒例の小幅板天井ですが、

ロールブラインドもその中に納める仕掛けは健在です。

建て主さんは生け花とお茶を長年やってきたので、網代天井の床の間には、床柱や落とし掛け、掛け軸用の無双四分一だけでなく、花蛭釘、中釘、花釘も付いています。畳床には炉も切ってあります。

早く引っ越されて、生け花を活けた空間で、お茶をたてていただくのが楽しみです。


新しい年になりました。今年もよろしくお願いします。

写真は拡大すると端の山の上の雲間にかすかに富士山が小さく見えます。めでたさも遠さも見えにくさも、今年の当事務所としてはこの程度かなと思います。

昨年までの数年は、東日本の被災地で開発提案した(FSU)工法の手前、定着するまではということで、個々の住宅や事務所等の復興のお手伝いの出稼ぎ(出張)が多くありました。それで忘れられたのか見放されたのか、関東方面の本来の在来工法の仕事が少なくなってきていました。それもいよいよ昨年暮れ、そのFSU工法で作るということになった、19年ラクビーワールドカップ釜石スタジアムのドーピング室等の木造諸室の設計がほぼ終わり、今年半ばに工事が完成すれば、お払い箱となるかと思われます。

これまで新しい工法に力を注いできて、いくつかわかってきたことがあります。職業柄、被災地で何らかの役に立ちたいという意識から始まりましたが、過酷な状況と地域特性からくる要請に答えようとしているうちに、設計者としての中途半端な我は見直し、建築を作るということの意味を改めて考えさせられました。例えば、当たり前のことながら建物そのものがすぐにも欲しい方には、いたずらに時間や費用をかける設計やデザインは、殆ど重きをなさず、工事を早く安くしてあげることの方が大事な場合が多いということです。それと林業や流通事情が建築工事の仕方や価格だけでなく、設計デザインにも大きく影響を与えうる可能性を秘めている、というようなことです。それゆえ設計者が関わるからには、それなりの意味と価値のあるものが何かも、わかってきました。

葉っぱの裏にも表にもめしべのような芽があるのが分かります?

さらにこの工法は、今後の木造建築の職人不足や工事費の高騰にいずれ対応する有効な手法になりうるということもみえてきました。

被災地での(建築)事情は人口減少を含め、日本の数年先を具現化しています。今、関東でのリフォームは人口減少で生じた空き家のせいか、リフォームブームになっていて、解体してみないと中がわからないからと、見積もりを高く出しても通る、美味しい仕事に思われ、各産業から多くのリフォーム屋さんが参入してきています。職人不足とオリンピックということで、工事費はうなぎ上りに高騰し始めています。新築よりも高いのでは、という話をよく聞きます。当然新築にもその余波は来て、今後オリンピックや消費税アップで職人不足がさらに進み、工事費のコストコントロールは益々難しくなりそうです。

その時、岩手で試みて色々わかった中で、新しい工法は現場職人をあまり必要とせず、殆どを工場で加工して持ち込んで作る木造建築の手法の核になりうる可能性を秘めています。現場での職人の数が少なくて済み、2日ほどで建込、屋根下地までいき、屋根を葺き、サッシ等を取り付け、設備を備えれば、それだけでも住めなくもない木造スケルトン(躯体)ができあがります。自分で仕上げたい(DIY)方や店舗あるいは別荘等にはうってつけです。またそれなりのレベルの住宅を望む方には、その後じっくり丁寧に仕上げて引き渡すこともできます。

岩手県では、施工を一緒にやっていただいていた工務店さんは、もう自分らだけで設計施工ができるようになり、依頼も多く、待っていただいている状況です。躯体建て込みだけの依頼もあり、その方が収益も高いとのことです。

関東では殆ど知られておらず、リフォーム等、他に収益のある依頼があるため、新たな工法はやりたがらず、この工法で見積もりをお願いしても、通常と同じようなものしか出してもらえません。それでしばらくは、店舗や別荘等で、岩手県と同じように多少遠方でも、忙しくない工務店さんを説得し、この工法で施工できるところを増やし、市中で高止まりしている工事費に、見直しを迫る手段にできないかと考えています。


練馬の二世帯住宅見学会開催

2017年12月9日(土)10時~14時までの間

練馬区の二世帯住宅で見学会をさせて頂けることとなりました。

木造FSU工法で建てられた住宅で地下1階、地上2階建です。

通常の木造在来工法とは構造が少し異なり、壁を杉の角材をボルトで連結したパネルでつくっており、壁内に空洞がありません。

そのため棚をつくったり重いものを掛けるフックを付ける際下地が必要なくどこにでも造作が可能なため、結設計ではDIYやハーフビルドを楽しみたい!という方にオススメしている工法です。

この家の建て主さんも室内に壁の杉材をアラワシで使ってご自身で塗装をされたりして無垢材の壁を楽しまれております。

地下室の床張りや洗面所のタイル張りなど、引き渡し後にご自身での作業を予定されていますので、今後の変化も含め大変楽しみです。

1階親世帯はフローリングの床+白い和紙を貼った壁+小幅板天井のリビング、

2階子世帯は畳の床+FSU工法アラワシの壁+白いクロスの天井のリビング

異なる2種類のリビング空間を見て頂ける面白い住宅です。

今までの結設計で手掛けてきたものとは少し違った楽しみ方を持った住宅となっております。

DIYに興味のある方や木のぬくもりを存分に感じたい方、是非お申込みをお待ちしております。

用途:専用住宅
構造:木造FSU工法 地下1階、地上2階建
延床面積:244.85平米(74.07坪)

■開催地:練馬区立野町
■日時:2017年12月9日(土)10:00~14:00
■最寄駅:JR中央線荻窪駅より南善福寺行バスに乗車

■申し込み方法
見学ご希望の方は、下記申し込みフォームか、結設計宛にメールにてお申し込み下さい。
お申し込みの際には、「練馬の二世帯住宅見学会希望」と明記して頂き、住所、氏名、連絡先、参加人数をご記入下さい。
参加申し込みのご連絡を頂いた方のみに、詳しい住所などをお知らせいたします。

■申し込み先
事例案内申し込みフォーム
e-mail: office@yui-sekkei.co.jp
FAX:   03-5651-1934
[お申込み締切]
12月8日(火)15:00まで

※ご不明点、ご質問等ございましたらお気軽にお問い合わせください。

 


黄葉に惹かれて

近くに銀杏並木が見事な通りがあり、黄葉に惹かれて、今年の黄葉は如何に、と改めて確認しに行ってきました。少し枯れかかっていましたが、桜の紅葉と銀杏の黄葉とに挟まれた芝生の公園が見事でした。

周辺もいくつか写真を撮ってみました。

いくつか撮っていると、その黄葉の下になにやら異様な(?)光景が見えてきました。

もっと近づいてみると、これは何と評していいやら、戸惑ってしまいました。

一戸一戸は普通の住居でしょうが、このような群となると、・・・・・・・。そう言えばここではありませんが、新幹線の平塚辺りでこのような風景を見た記憶のある方もいらっしゃるのでは?

絶句。


家づくりストーリー「棚楼居(ホウロウキョ)」3

エピソード3:いい家は転売にも威力を発揮する

ご主人が亡くなられて数年後、奥様から、とっても住み易いいい家ですが、家族の中に幾つか事情が出来て、手放さなくてならなくなりました。不動産屋さんに売却をお願いしたいが、どう値付けしたらいいでしょうかと相談を受けました。相場では建物付きの土地は土地代だけが値打ちもので、場合によって建物付きは解体費がかかるから、地代より安くさせられることがある、とのことでした。私からは、不動産屋さんの言いなりに値付けしないで、今なら建築時の建築費を多少割り増した建物価格を土地代に加算してもいいのではないですか、とアドバイスしました。というのは私どもが計画した建築を引き渡す時いつも、この家はもう二度とこの工事費ではつくれないな、という想いで引き渡しています。同じ建築を再度つくろうとすると1〜2割増しになると思うことが殆どだからです。その時々の様々な条件を有利に活用し切って、矛盾するハードルを何とか乗り越え、この工事費でやっと創れたと安堵を覚えます。条件が一つでも欠けたら出来なかった家だからです。一般的不動産屋さんの判断は建物の善し悪しに関係なく値付けをされますが、私達のつくる家は、そのような住まいを望んでいるような方に嵌れば、絶対欲しくなるという自信はあります。案の定、売りに出したらすぐに買い手が付いたということでした。「戸神台の家」と同じです。


家づくりストーリー「棚楼居(ホウロウキョ)」2

エピソード2:姉葉事件の確認審査機関

建築のほうは、江戸っ子ではない自分等のせいか、順調にぱっぱとは行かないこともありました。少しでも早く完成させたいということで、建築確認申請も当時は早く見てくれるという民間の審査機関に申請し、早く下すことは出来、着工もすぐ出来ました。しかしその審査機関はイーホームズという、当時構造偽装の姉葉事件で、スケープゴートとして、本業の建築審査業務ではなく単なる機関の設立手続き違反として廃業させられたところでした。そんなことは未だ誰も知らず、中間検査にも問題なく通ったのですが、その直後に廃業させられたため、完成検査は台東区役所にお願いに行ったら、廃業させられた審査機関の竣工検査は、そもそも建築確認申請が確かかどうか確証出来ないので、最初の建築確認から見直すと言われました。そうすると数ヶ月住むことが遅くなります。余命幾ばくも無いご主人をその間待たせることになります。そこでご家族に相談して、早く住まわせて上げたいということで、完成検査は受けませんでした。気を揉みつつも、なんとか建物はたいした問題もなく住めるようになり、ご主人にもその住まいに数年程住んで頂けたことは救いでした。


家づくりストーリー「棚楼居(ホウロウキョ)」1

エピソ−ド1:余命幾ばくも無い方のいる家づくり

家づくりは、建てる方もお手伝いするほうも楽しい事業ですが、時には切ないこともあります。「棚楼居」の場合、建ててもご主人は何年住めるか分からない、という状況で計画は始まりました。その時のご主人は既にガンに侵されていて、余命幾ばくも無いという状態でした。ご主人が言うには、これまで勝手なことばtかりして来て、家族に迷惑ばかりかけたから、残された家族にいい家を残し、出来上がった住まいを見届けて逝きたいという、主人の強い想いと、奥様の短くてもいいから気持ちいい家に住まわせて上げたいという二人の想いから始まった計画でした。

ご主人に少しでも長く住んで頂くため、計画も出来るだけ早くしよう、防火構造促進地域ということで、鉄筋コンクリート造にせざるをえなく、車いすでしたのでエレベーターは必須であり、いずれにしろ杭工事は必要な柔らかい地盤であり、予算的にも無駄なくするためにも杭の本数が少なくて済むよう建築面積も小さくし、部屋を縦割りではなく、いっそ棚状の横割りの4階建ての間取りとしました。和の部屋も欲しいということで、現代的な和室も設え、お風呂だけが楽しみとのことで、南向きの見晴らしよい広い快適な浴室を設け、病院通いの際の車の乗り降りに、雨に濡れないよう、一階一部をピロティーにしたカーポートを設け、さらに生活の変化に増改築等で対応出来るようにと、敢えて道路際に数台分の貸し駐車場を確保し、当面は残された者の収入の糧となるような計画としました。

ご夫婦とも根っからの江戸っ子、というより浅草っ子で、決め方が恬淡としていて、説明をするとすぐ、分かった、と病人と思えない程と割り切りが潔く、設計も気持ち良く進めることができました。計画中も工事中も、自分はあまり食べられないのに、よく鰻屋さんや寿司屋さんに連れてって頂き、これが江戸っ子なんだろうなという、病身に気を使わせまいとする、気丈で気っ風のよい振る舞いをされ、小気味好い昔のお話を沢山聞かせていただきました。ご夫婦それぞれへの思いやりも、斯くありたいと思えるような振る舞いで、教えて頂くことも多々ありました。このようなお付き合いも永くないのかと思うと、帰りの電車の中で切なくなって来たことが度々でした。


外部に晒された木部のメンテナンス


先日、10年程前に建てた上記の住宅に一部増築したその後の様子を見に行って、驚かされたことがありました。

この住宅の後ろに目立たないように自転車置き場と物置を増築しました。

増築はする前とした後とにさ程違和感はなく安心しました。
驚いたのは、軒裏の小幅いた天井でした。下が完成当時の天井です。

私どもがよく使用する小幅板天井を軒裏まで貼った場合、場所によって差がありますが、どうしても5、6年程で紫外線や排気ガス、あるいは苔等の付着で変色してしまいます。耐候性はさほど変わりませんが、完成時の色を知っている者としては気になってしまうものです。
ところがその変色を、メンテナンスで再塗装をされて下の写真のように、殆ど完成時の頃の色を維持しているのを見せて頂き嬉しくなりました。

メンテナンスの重要性を改めて意識させられました。小幅板の天井は米松の無垢の板なので、変色がひどい場合は、再塗装の際一度サンダーで表面の色を落として塗装をすると、元の木の色を取り戻すことが出来ます。


家づくりストーリー:「空き家」は未開拓生活資源?

南林間の家」エピソード:「空き家」は未開拓生活資源?

「南林間の家」リノベーションは私たちに大きな示唆を与えてくれました。


たまたま、ご両親が亡くなり、住まわれた家に引っ越し、自分たちの古い家が余る状況になり、まさに典型的な空き家問題が発生するところでした。ご両親の住まわれていた家の間取りでは、南に面した部屋は客間の一部屋だけで、居間食堂は太陽を十分生かしている家とは言い難く、築年数が比較的新しいだけがいいところでした。自分たちが住んでいた家は築年数も古く、自衛隊の航空騒音の激しいところで、昼間は人が居ない個室が南向きにあり、廊下や押入れを隔てた奥の北向きに、居間食堂キッチンがありました。陽が射さず、西日だけが多少射す家でした。このような家に主婦として日中住み続けて一生を終えるのかと思うと、たまらない気持になって、私どものホームページで見る事例写真のような家にはならないものかと相談されました。既存の家は50坪ほどあり、すべてをそのようにするのは予算的に無理ですが、防音工事用助成金に同程度加算してなら、居間食堂キッチン等を事例のように南向きのゆったりとした住まいにリノベーションし、寝室を少し整理して、後は防音と断熱の性能アップしつつきれいにする程度なら可能ですよ、と始まった計画でした。

せっかく作るなら玄関も広く、キッチンや家具も自分の気に入ったものを入れ、浴室も木の香の薫る内装で、坪庭を愛でることができる窓を大きく取り、テレビやAV機器も音の良いスピーカーで聞けるようにと、こだわるところは多少贅沢にしましようとなりました。


完成して、半年後に尋ねたら、引き渡したままで、生活感がなくきれいな状態のままでした。住まわれてないのですか、と尋ねたら、普段は敢えて両親の住んでいた家で生活しています。新しい家は、何かあった時、客が来た時、音楽をゆっくり聞きたいとき、気分転換したい時にこちらで過ごすんですよ、とのことでした。最初は汚したくない、もったいないからと、しばらく引っ越さず、工事中に住んでいた両親の家で生活しているうち、今のような、晴れの空間としての使い方になったということでした。つまり近距離別荘として使われていたのです。しかも使用頻度の高い別荘です。

これは、日本の空き家の活用に極めて示唆に富む例ではないかと思い、ブログで紹介している次第です。今日の日本の「空き家」は、社会の大きな問題として捉えられていますが、さにあらず、人々が豊かに暮らすための大きな生活資源だったのです。


今回はたまたま、家族の所有であったため上手くいったところが、確かにありますが、でも空き家の情報をもっと公開されたものにし、上手にコーディネートできれば、このような例はそれほど難しいものではないように思われます。このような空き家になりそうな情報を集約し、上手な活用を提案していくことを今後真面目に考えてみようかと思います。


紅葉もいいけど黄葉もいい

事務所近くの通りの銀杏の木です。

陽射しを透かして見せる黄葉がとてもきれいだったので思わずシャッターを押してしまいました。そこへ木枯らし一番が吹いてきました。

風に揺れる銀杏の葉から木漏れ陽も、自分の気持ちも一緒に揺れていました。