最近の地耐力調査と地盤改良あれこれ

この穴は今朝立ち合ってきた「ピュアパイル工法」という地盤改良工事で開けた、直径20㎝、深さ6.5mの穴です。この穴にセメントミルクを注入し、硬化させて杭にします。今回は、このような杭を57本を地中に形成します。この敷地から十数メートル南の敷地でしたらたぶん、均一な関東ローム層で、地盤改良工事は不要であったと思われます。この場所でも依然あった住宅は改良工事をしていなかったと思われます。

 

左の写真が穴の中に形成された杭の頭です。今回、地耐力調査をしたら、敷地がちょうど弱くなる地域との境目にあたり、部分的に足りない箇所が判明し、不動沈下の可能性があるので改良工事が必用となりました。
住宅の場合、今は建築基準法で工事者に瑕疵担保保障が義務付けられ、そのために施工会社は保険をかけます。その保険会社は地耐力調査結果に改良工事が必用との報告がでると、地盤改良工事をしない限り、建物の構造保証をしませんので、やらざるを得ないのです。かと言って保険会社は上物の構造保証はしても地盤のせいで生じる他の損害の保証はしない、となっています。瑕疵担保保証の意味に疑問が残りますが、地盤にまつわる損害の補償は工事関係者が保証機関に加入してそこでの保証となります。その辺は施工者によっては未加入や曖昧な場合があるので瑕疵担保だけでなく地盤の補償も事前に明確にしておく必要があります。左の写真は今回のピュアパイル工法の穴を地中に空け、セメントミルクを注入する機械です。

左の写真は今回の調査ではありませんが、調査会社が地耐力の調査をしているところです。スエーデン式サウンディング(SS) 調査方式です。左下の写真で土を除去してる矢の部分を地面に突き刺して荷重を掛けて回転させ、1m差し込むのに何回転必要かで土の硬さを計測します。

地耐力調査会社と地盤改良工事を行う会社が同じ場合もあります。地盤調査会社が改良工事が必用、という調査結果がでても、正直、本当に改良工事が必用なの?と、疑問を覚えることが多々あります。地耐力調査会社も地盤改良工事会社も保険会社の構造判定者も「安全のため」という正義の御旗を掲げ、改良工事をする方向に働いている感を否めません。
何とか改良工事をせずに安全性を確保できないかと、正義の御旗に逆らう悪者のように孤軍奮闘しているのは、限られた予算の中で、できるだけ建て主の要望を多くかなえて、いい家を作る役割を負った設計者だけという、現状の地盤改良の世の図式です。以下、設計者のぼやきも混じり、長くなりますので、改良工事に関心ない方は飛ばして頂いた方がいいかもしれません。
RC造の建物のように、思い荷重の場合は殆ど地盤改良ではなく、既成杭や、地中にコンクリートと鉄筋で形成する現場杭を、必要な長さと太さで硬い地盤の層まで到達させて支えます。

左の写真は既成の鋼管杭を打ち込んでいる写真です。既成のコンクリート杭は打ちこみに騒音を発生するためか最近少なくなりました。地盤が極めて軟弱で固い層がとんでもなく深い場合、杭の摩擦力で支える三角杭などという摩擦杭もあります。既成の鋼管杭でも、穴を掘り進めていくため先端と途中に羽根状の刃を取り付け、その刃を耐荷重を増す仕掛けとした羽根又は翼付杭工法などというものもあります。これには木造でも手軽に活用できるものもあります。


左の写真は現場杭用の穴を掘削しているところです。
その穴にコンクリートを包み込む鋼管を挿入しているところがその下の写真です。その下が鋼管に鉄筋を挿入しているところで、この中にコンクリートを流し込んで現場杭が地中に形成されます。


 

 

 

 

 

 

 

 

RC造の必要地耐力は木造に比して数倍になるので、地盤調査も単なる地盤の固さを調べるSS調査ではなく、左の写真のように、ボーリング調査で標準貫入試験を行います。軟弱な地盤から硬質な岩盤まで掘削可能です。土質試料の採取も可能で、直接土を採取することにより正確な土質判定も可能になります。標準貫入試験により地盤の強度を判定するN値の測定も可能で、地盤や杭の支持力や土質定数が算定できます。地下水位の確認も可能です。((株)フジタ地質より)

話を地盤改良に戻します。木造ではRCほど重くありませんから、建物を載せるために必要な硬さと厚さの地盤を形成する、地盤改良で殆どが済みます。その方法は基礎形状や地質及びその耐力によって色々あります。地盤改良が行われるようになった初期は敷地の表装1~2mの層の土を撹拌して硬化剤と混ぜて全体に固い盤を形成する表層改良や、下の写真のように直径60㎝ほどの土を撹拌してそこにセメントを混ぜて柱状に硬い地盤を形成する柱状改良が通常でした。
柱状改良の掘削撹拌機械
掘削中で、この穴に土とモルタルを撹拌して柱状改良を行った直後で、平らに整える前です。これで大丈夫かと不安になりますが、10年以上経過して全く問題出ていません。
最近、土とセメントを混ぜた場合、それを撤去して廃棄すると産業廃棄物になるので、砂利だけで柱状にして支える「ハイスピード工法」という地盤改良工法もでてきました。確かに砂利だけなら環境汚染をさせないという意味で理想的かもしれません。しかし、軟弱地盤の場合、柱状の砂利が硬化剤がないと砂利が地中で周囲に拡散して支持力をどう担保できるのか採用する場合はよく検討してから使用したい工法です。
これまでは柱状改良の採用が殆どで、今回のように直径20㎝程の太さで土を混ぜないで、杭を形成するのは自分としては初めてです。他にRC造で紹介したような鋼管を打ち込む工法はよくあり、杭打ち機械が入らない現場用に、直径60ミリほどの単管を数多く打ち込むやり方もあります。
建物が載る地盤に砕石を敷いてその上にクロスを敷き、さらにまた砕石を敷いて均してクロスを挟み込み、地盤を安定させる「ジオクロス・ユビファ工法という工法」もあります。建物の基礎の外50㎝程迄クロスを敷き込み、引っ張り安定させる、そのクロスが左の写真です。そのクロスは特殊なプラスチックでできていて、水にも溶けず、バクテリアにも影響されず、半永久的に強度保つそうです。一昨年に採用しましたが、今のところ問題ないです。環境を考え、解体廃棄の場合、容易に取り除くことができ、取り出して燃焼可能とのことです。
また極めて柔らかい地層の場合、建物重量分だけ、地中から土を取り出し、その取り出した空洞を発泡スチロールで充填することで建物の沈下を抑える、コロンブス工法という地盤改良工法もあります。

地盤に関しては、敷地付近の地層の状況を調べ、地盤の地耐力調査を正確なデータを出せる状態で、確かな方法で行い、その納得できる結果で改良が必要となっても、建てる建物の荷重と地盤の状態を検証して、性能的にも経済的にも最も適切な改良工法を選択し、可能な限りの保証がえられる実施方法で行う、という容易ではない一連の作業を行う必要があります。
ここまで読み進んでいただいたお礼に、各種の価格について紹介しておきます。平坦で計測容易な敷地という条件で、SS式地盤の地耐力調査は広さと状況にもよりますが、約十メートル深さまで5ポイントの地点の計測条件で5~7万円です。調査会社によっては、その調査の時に数万円を加算して一緒に、その敷地の簡易測量と現場状況の調査もしてくれるところもあります。
ボーリング調査は通常20m程度の深さで1ポイントの調査で20~30万円程度です。調査項目と深さよって違ってきます。地盤改良工事は、状況により差が出ますが、二階建て延床40坪の住宅で70万円から100万円程度です。
いずれにしても必ず事前に条件を明確にして見積もりを取ったうえで進めることです。