「崖や段差のある土地の活用法と活用事例集のお話しです。
住宅地などでも傾斜地に造成された土地では、道路と敷地・敷地内・隣家の土地と間に段差が出来ることが珍しくはありません。
崖地や段差がある土地は、価格が安いとか、眺望が良いなどのメリットはありますが、その崖や高低差が不便と感じることもあります。
しかし、段差もうまく活用した住宅を建てられれば、快適な家にすることは十分可能です。
結設計でも、近年、崖や段差のある土地に建築する機会が続いています。
崖や段差は程度と状況によっては家づくり計画に大きな影響を与え、予算を読み違えることが多々あります。
崖や段差にどんなタイプがあり、そこにはどんな問題が潜み、どんなことに気を付け、どんな解決策があるか、建築事例を通しながらご紹介したいと思います。
上の図は、敷地の上側にも下側にも崖があり、かつ敷地内にも段差がある事例(仙谷望楼 )です。図の左側(植栽ブロック擁壁)のように敷地地盤面より高い位置の擁壁、敷地内段差(建物地下室自体が擁壁替りにも活用)の擁壁、右側(鉄筋コンクリート造擁壁)のように地盤面下にあるかで違ってきます。ここの擁壁は上下とも安全性が確認でき、証明が不要で助かりました。
1.崖地条例
崖や段差は崩落し、自己もしくは他者に損害を与えます。それを防ぐために各県で条例を設けています。その条例を簡便にまとめた図が下の図です。
- 通常高低差が2m超える崖が条例の対象となります。
- 法面の角度が30度以下なら自然崩落はしないとされ、その範囲内なら建てられます。
- 30度を超える崖の場合、崩れる崖上にも、崩れて来る崖下にも崩落に対する処置をせずに建築してはいけないとされています。
- 処置の一つとして、崖上でも崖下でも、土砂が崩落しないように擁壁を設けます。
- 崖下に建てる場合、崩落して来てもその土砂が及ぶ30度の角度の範囲に建つ建物部分を鉄筋コンクリートで作ることで安全を確保する必要があります。
- 崖上に建つ建物で、崖が崩落防止用の擁壁が設けられていても、それが安全性を証明できない場合は、30度の角度以下まで基礎もしくは杭を設ける必要があります。
- 条例が及ばない2m以下の崖でも、安全性を考慮し、条例と同様の処置はすべきと思います。
2.擁壁のタイプ
擁壁や土留めで安全性を証明できるタイプでは、鉄筋コンクリート造、型枠コンクリートブロック造、L型擁壁ブロック、間知石積擁壁、間知石ブロック積擁壁、等があり、段差の高さによって、施工内容が細かく規定されています。よくある自然石の大谷石積擁壁や無筋のブロック等は安全性を証明できない場合が殆どです。参考外部サイト擁壁の種類と特徴をご紹介
3.擁壁と法面
擁壁と30度以下の法面を組み合わせ、土留めの高さを小さくすることも可能です。(下左写真) 又、崖が敷地内・外いずれにあっても、地盤面より高位置にあって、崖が安全性を証明できる擁壁等で保全されていない限り、高いところから30度の角度の斜線内に建築する場合、崖が崩落しても建築物が安全なるよう、30度以内鉄筋コンクリート等で保護が必要です。下写真右は一部コンクリートで擁壁を設けていますが、隣の玉石含め、その上の崖は30度以上あり、崩落の恐れあり、安全性を確保できないので、建築物の保護の用をなしません。
4.敷地の下側にある崖
崖が敷地内にありかつ敷地レベルより低く、30度以上の法面となる場合、隣家に崩落しないために擁壁等の処置をせず崩落して隣家に損害を与えた場合損害賠償を請求されます。下左写真は安全性を証明できる間知石擁壁にした事例。写真中央は崖が地盤面より低く法面が30度以上あり、崖が崩落しても、自己の建築が影響を受けないよう、崖下の低い地面レベルから30度の斜線の下まで達する基礎又は、地盤改良等何らかの対処(この場合は地盤改良杭)が必要です。
5.道路から2.5m高い敷地
道路と敷地に高低差があり道路より一階分程高い段差のある土地の事例。
「善福寺の家」:道路より一層分高い敷地にあり、住まいをバリアーフリーにするため地下入り玄関とし、地上二階までホームエレベーターを将来設置できるようにした事例。
鎌倉借景の家 | :住まいの地盤は道路より一層分高く、駐車場とに段差があり、その段差を外階段と地下倉庫で擁壁を兼ねた事例です。ブログ難所をどう越えたか、を参照ください。
6.敷地内段差
駐車場等のスペース確保の掘削で生じた敷地内段差も崩落防止の擁壁が必要です。
7.崖地や地下室の掘削工事のための矢板土留め例
崖地工事や地下室等造る場合も工事中の崩落防止のための矢板等の土留めが必要とします。
8.敷地が道路より低い土地の活用事例
道路等より低い土地の敷地は集中豪雨等の雨水対策を考える必要があります。そこで一階を駐車場にして、住まいを半階分持ち上げた事例、「方円汎居 | 中庭のある住まい
9.道路より一階分低い敷地の活用事例
道路より一階分程低い土地 聖蹟桜ヶ丘の家|崖の上の住まい:開発行為を経て分譲した土地のため、道路との段差を支える擁壁は安全性が証明されていたので、二階玄関の木造二階建てをとし、デッキスペースを含めた基礎が敷地外の崖下から30度以下にあることを確認して計画をしています。
10.道路より半階分高い敷地の活用事例
道路より半階分程高い土地 「空環居 | で、南東の道路より1.2m高い地盤に建築し、ポーチレベルの奥行を2m程確保し、車の寄り付きとし、その壁が擁壁であり、庭の目隠しとした事例。玄関までは外階段で数段上って入り、円形の中庭を回遊して居間に入ります。塀の上端レベルに逆L型に寄り付きの屋根を掛け、濡れず玄関に入ります。
11.敷地内段差(半階分)あってもバリアフリー用意の活用例
「日野の家 ・二世帯住宅」「国立の家」 道路際に車庫と玄関と将来用のホームエレベーター対応の収納スペースを設け、一部高基礎の地下一階地上二階のバリアーフリー可能な家二例。
12.一階分の段差ある二つの道路に面した土地活用例
一階分高さの違う二面道路路に接し、既存擁壁を跨いで建てた事例「永山の家 |
13.傾斜道路に接する敷地の活用二例
傾斜する道路に接した土地:「雪谷の家」玄関が道路の交差点角でそこが家の角になり玄関になっています。道路奥が地下車庫になっています。「吉井町の家」北側道路が坂道になっていてその中央部が玄関です。ホームページ事例には掲載していませんが、当事務所著作「美しく住まいを整えるデザインのルール」に掲載されています。
14.敷地が傾斜している土地の活用例
敷地自体が傾斜地になっていたので、造成せずに基礎を橋脚のように設けた例です。「一不異二亭」|森に浮かぶ別荘|
15.敷地内に崩落しそうな崖がある敷地の活用例
西側敷地内に敷地面より3m程高い崖を有し、東面に1m弱低い坂道道路に接する土地に建つ家です。「あきる野の家 | 崖下の家
16.敷地が安全確認が不可能な大谷石擁壁で支えられた土地活用例
敷地より低い強度保証のない大谷石の二段擁壁に支えられた崖の上の敷地に建てられた家です。「崖上 桜の家(氷川台の家) 」
17.敷地が一階分低い道路と高い隣地に接する土地の活用例
敷地より高い崖と低い道路の両方に接する土地の活用事例:「音楽室のある家」と、ひな壇の敷地の「八ヶ埼の家」(設計事例には掲載してませんが拙著「美しく住まいを整えるデザインのルール」には掲載されています。)