月: 2010年4月

フランスの建築 9 Cathédrale Notre-Dame de Paris

ノートルダム大聖堂のファサード

このシリーズも残すところ2回となりました。今回はノートルダム大聖堂(ノートルダム寺院)です。初期ゴシック建築の最高峰とも言われるこの建物は12世紀後半に着工し、竣工は1345年です。正面からはフライングバットレスが見えないものの、裏面はバットレスが放射状に広がり、おどろおどろしいほどの様相を呈しております。スパイダーとの異名も付いているようです。

美しい交差リブヴォールトの天井

ゴシック建築といえば、この写真のような交差リブヴォールトです。これが外観にもたらす尖塔上の形状から耽美系のビジュアル要素としてしばしば使われますが、実は「様の美」と呼ぶにふさわしい、必要性に迫られて開発された形状なのです。簡単に言うと、交差リブヴォールトによってそれまでのロマネスク建築に比べ平面形状と高さに自由度が生まれたのです。ヴォールトについて詳しくはWikipediaなんかを参照してください。

椅子が意外と座りやすい

内部は大聖堂なので当たり前ながら椅子が並んでいます。教会の椅子といえば木製のベンチが定番ですが、ここの椅子は籐編み座面の比較的座り心地のよいものでした。建物に関係ありませんが、これに座ってのんびり周りを眺めるのもなかなか乙でした。

ステンドグラス

そして、忘れてはいけないのがステンドグラスです。有名なのは円形のバラ窓ですが、それ以外にも無数に(と感じるくらい)あり、どれもが独特の要素を持っているため見ていて飽きません。実は私はそれほどステンドグラスに興味が無いのですがそれでも見惚れてしまったくらいなので、好きな方が見ればステンドグラス見物だけで一日過ごせるのではないでしょうか。

入り口の彫刻

中央付近の首を持っている聖人はサン・ドニだと思われます。ゴシック建築の装飾は基本的に聖人ベースで、ただの飾りではありません。が、ここの彫刻は実は竣工時には無く、18世紀のゴシックリヴァイバルの時期に施されたものです。ユーゴーの小説「パリのノートルダム」もこの時期です。最近の町屋ブームと似たようなものだったのかもしれません。

ノートルダムといえばユーゴーの小説をベースにしたディズニーの「ノートルダムの鐘」が有名ですが、案の定建物前の広場にはかなりリアルにせむし男の扮装をしたパフォーマーがおりました。また、ここはナポレオンの戴冠式が行われた場所でもあります。さらにいえばパリからの距離を示す際の基準点でもあります。正直、今回の旅程の中では地味な印象を持っていたのですが、なかなかどうして面白みのある場所でした。時間があれば塔に登ってみたかったのですが、何せ過密スケジュールだったので断念せざるを得ませんでした。階段に恐れをなしたわけはありません。


30年程前に設計した建築の増改修

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前回のブログで取り上げた自冶会館の増改修工事前の古い写真です。この建物は1977年、設計事務所を独立した年の設計です。他所の団地の集会施設は建て替えられたものが多く、この建物も増築か建て替えかで大分検討されたようです。最終的に増改修でよいとなったようで、設計者としてはうれしい限りです。

三十数年前に設計した建築との対面は、若い時の恋人に会うような気恥ずかしいというか、こそばがゆいものがあるものです。よくもまあこれまで頑張って建ち続けてくれたという感慨と、もうちょっと何とかできなかったのかというような気持ちが混在しています。

 当時ミースと言う有名な建築家にあこがれていたせいか、その影響がもろに現れた建築になっていて、建物への当時の想い入れが改めて思い出されます。

 構造は空間をできるだけ自由に使えるようにと、内部が柱なしのオープンな鉄骨造の平屋建てです。筋交いのような倒れにくくする仕掛けは建物前後に配した、費用のかからないコンクリートブロック造の収納や厨房及び洗面所で支えています。屋根は折板のフラットルーフで、庇を周辺に2mほど跳ねだしていて、それが使用勝手も、メンテナンス上もかなり良かったようです。

 内部もスライデイングウォールで間仕切り可能になっていて、外部採光の取れないところは水平ブラインド付きのトップライトにしていて、独立したてとしては良く考えられているところも少なくありません。当時一緒にやっていた構造設計者や工事関係者が手馴れていた人たちだったせいか、素直に意見を聞き、あまり我を出さずに進めたためうまくいったのかもしれません。

増改修工事をしていく中で、古い部分の対処に苦しむ所が生じても、既存建物のせいにする訳にはいかず、現場監督も、にやっと笑いながら相談してくることもありました。当時の自分の未熟さを思い知る事もある反面、やはり作り手の思い入れと素直さが、愛され続ける建築にしてくれたのかもという気がしました。下が増改修後の写真です。初心を踏襲しています。成長してないかも。

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耐震補強・改修・増築工事 完成式

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自治会館の耐震補強・改修・増築工事は無事引き渡しが終わり、完成式が行われました。
こういう式典というのは、慣れないですね(笑)。どうもぎこちなくなってしまいます。


壊すものとつけ加えるもの

東久留米の増築工事がスタートしました。お子さんの誕生をきっかけに、親世帯と若夫婦で上下階に2世帯同居のための増築です。建て主さんが建替えではなく増築を選ばれたのは、ご両親が増築や改修など家に手を入れ大切に長年住み続けてこられたという理由もありました。

既存の梁や柱を可能な限り活かし、必要十分な居住スペースを2階に確保する検討から入りました。そして、ご家族の皆様と打合せを進めるうちに、1階部分にも新たな収納や断熱性能、2階バルコニーと向き合うデッキなどを設けることになりました。

そんな打合せや設計の過程を今振り返ると、壊すものをできる限り減らして、必要なものを得るためにどうしても壊さなくてはいけないものだけ壊し、本当に必要なものだけをつけ加えていくという行為であったと感じています。古いものをぶっ壊して新しくつけ加えることは、案外簡単で新鮮で経済的です。でも、新築のように一からつくる訳ではなく、長年住み慣れた場所を活かしながらの増築の場合、壊すものとつけ加えるもののバランスの吟味が大切なのかもしれません。

その吟味の過程で得られるものは、古いものを大切につかうという単純な意味だけではなく、住む人のそれぞれの思いを共有した上で、新しい生活をこれから始めるのに大切なものなのでしょう。普段からそういうことをとても大切にされているご家族だからこそ、増築して同居されるという選択肢を選ばれたのだと、大切なことを教えて頂きました。

ルーク君、犬小屋、お気に召してくれるかな?

luke