投稿者: 藤原昭夫

太陽光を住宅設計でどう考えるか その6

太陽光活用設計手法~まとめ編~

今、東京都が太陽光発電を住宅等の新築に条件付きで義務化するという条例改正をしようとしており、
東京都環境局HPより:環境確保条例の改正「中間のまとめ」のポイント
建築物省エネ法についても、2025年度から住宅の省エネ基準適合を義務化する改正案を閣議決定しました。
国土交通省HPより:令和4年4月22日「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律案」

脱炭素社会の実現に向けた環境負荷削減の問題は、もはや全体で真剣に取り組まなければならない段階に差し掛かってきているのだと思います。そんな時代の流れの中、住宅を生業とする設計事務所も目を向けないわけにはいかない状況です。
今回は、これまでの太陽光活用の提案の内容をまとめました。私たちの考えを共有することで、皆さんが自然エネルギーといかに付き合っていくか考えるきっかけや材料になればと思います。

① 太陽光の熱を給湯に利用する
まずは住宅で使用するエネルギーの約35%は給湯であることに注目して、太陽エネルギーの利用効率の高い太陽熱給湯システムで80度のお湯を晴天の日、300~400リットルをタンクに貯めて浴室とキッチン洗面等に活用します。春夏秋の給湯は殆どそれだけで賄うことが出来ます。
あるいは、ヒートポンプでお湯をつくるエコキュートを導入し、太陽光発電でお湯を沸かせるようにします。

② 太陽光パネルを発電効率良く、漏水リスクが少ないように取り付ける
屋根の形状を考えるときは、真南方向に30度の勾配で、100%の発電効率が得られることを踏まえて、効率の悪い面にパネルを置くことがないように設計します。
屋根の素材については、結設計では、ガルバリウムなどの金属葺や、アスファルトシングル葺をよく使用しますが、防水の保証期間以降の雨漏りのリスクを減らすのであれば、金属葺きで、直接ビス打ち固定とせず、掴み金物で固定し架台を設けます。
竣工後に太陽光パネルを後付けすることが想定され、どのような取付け方をするかわからない場合は、直接ビス打ちされてしまう可能性を考慮して、金属葺よりはリスクの少ないアスファルトシングル葺きとします。

③ エネルギー消費の少ない計画とする
軒を深く出すことで、冬は南の開口部から太陽光を直に取入れ、夏は庇等で太陽光を室内に入れない構造とし、照明だけでなく冷暖房でも昼の電気の使用量が少ない建物にします。

軒の出を深くして夏の直射日光を室内に入れず、冬の直射日光は取り入れる

④ 太陽光発電で得たエネルギーを建築に貯める
昼発電した電気を基礎蓄熱冷暖房を採用することで、昼に発電したエネルギーを夜の冷暖房で使用できるようにします。また、基礎蓄熱の効果を高めるため、基礎を含め外断熱とします。蓄電池を使わずになるべく自家消費率を増やすため、住宅を蓄電池化する手法です。

⑤ 木造でありながら、躯体に蓄熱性の高い構造を用いる
通常の在来木造は、柱と柱の間は構造用合板や筋交いが入っており、隙間の空洞に断熱材を入れています。なので断熱性あっても蓄熱性があるとは言えません。かねてより結設計で取り組んでいるFSU工法は柱の間を柱と同じ角材を緊結して作った壁パネルで構成しています。壁パネルは密実な木のかたまりなので、熱容量が大きく、それ自体が蓄熱体にもなる性能を有している上に、断熱性能と構造強度、さらには燃え代耐火性能を持っています。

FSU工法の建て方
在来工法の建て方
FSU工法と基礎蓄熱冷暖房を組み合わせたイメージ

最後に…
今回は、もし私たちが太陽光を活用して設計するならばこんな方法はどうかという「一般解」の紹介をさせていただきました。ですが、住宅設計では、ご依頼主それぞれの優先順位、敷地条件、生活スタイルなど様々な「特殊解」を併せて解いていく必要があります。私たちに設計をご依頼頂いた際は、これらの手法を絶対条件で進めていくという訳ではなく、個別の優先順位に応じて設計を進めていくということを最後に補足させていただきます。これまでのブログについても併せて読んでいただけると幸いです。


鎌倉山の家 内覧会のお知らせ

世界中を脅かしたコロナも減少傾向となり、少しずつコロナ前の日常を過ごす瞬間が増えてきました。

来る2022年6月25日の土曜日、建主様のご厚意により「鎌倉山の家」の内覧会を開催できることになりましたのでお知らせします。

鎌倉山の家 リビング

鎌倉山にあるこの土地は段差がある土地で、その高低差は2mを超す場所もあることから、申請手続き含め計画は慎重に練られました。そのポイントのひとつは『高低差のある土地の計画 鎌倉編①』をご覧ください。

また、アプローチ階段のRC壁については、建物一体とせず擁壁としての扱いにしています。この擁壁については『高低差のある土地の計画 鎌倉編②』でご紹介しています。これら崖に対する計画に関するお話しを含め現地をご確認いただける機会となります。

2階リビングから臨む

敷地は、区画内だけでなく前面のメイン道路からも高低差があることから、メイン道路からリビングの高さは実質4階建ての高さに相当し、視界を遮るものがありません。この土地の段差をうまく暮らしに活かすため、断然見晴らしのいい2階はパブリック空間、1階をプライベート空間としました。リビングのコーナー窓は、この土地だから取り入れることのできる借景となっています。リビング天井は、これまで私どもが数多く施してきた小幅板天井ではなく、軒先まで伸びた垂木見せた天井です。コーナーをR加工にした内壁と相性のいい珪藻土クロスはホワイト系でまとめ、壁面に反射するテープライトの灯りが柔らかに映ります。

和室は間接照明で。パントリー収納棚の奥行きを利用して裏に床の間風スペースを設置

そして生活に必須となる収納計画。まず玄関正面に設けたシューズインクローゼットは、扉を開けると床を張っていないことから基礎仕上げがそのまま現れます。これは工事費を少々安くするだけでなく、収納内に床下を含んだ高さを取ることで階段下スペースも十分な収納空間とすることができるうえに、立ち上がりを塞がないことで床下点検口を兼ねています。次に主寝室クローゼットに設けたパイプスペース分の奥行きには可動棚を設置。さらにキッチンに並んで設けたパントリーには、一切無駄のない幅で設置し、大容量の壁面収納が付きました。空間の隙間を利用した収納計画となっています。

これらの収納については、是非現地で実際ご確認ください。

そのほか、この日も熱い空気が流れ出ていました。オリジナル棟換気も設置しています。

大工さん製作のオリジナル棟換気
↑ 大工さん製作のオリジナル棟換気

壁内から屋根へ空気を流すための通気層は、熱い空気を逃がす温熱環境の省エネに関与するだけでなく、壁体内の結露防止に重要な役割を担っています。結露は状況によっては雨漏りかと思わせるほどの水分量で建物に悪影響を及ぼします。故に空気の流れを計画し、通気層をしっかり確保することは建物の寿命に直結します。こちらは屋根の上に設置されているので当日実物を見ることは難しいかもしれません・・・。しかし実際目にすることができる箇所だけでなく、このように家づくりには目に見えない重要な箇所が複数含まれています。家づくりは、これらをひとつひとつを確認することが我が家を長持ちさせるヒントとなります。

リモートワークの定着により、都心での定住にこだわらず、自然豊かな生活を求めて移住する方が増加し、NPO法人 ふるさと回帰支援センターでは、コロナ禍にも関わらず2021年の移住相談件数は過去最高の件数だったようです。コロナにより、暮らし方を見直すきっかけとなった今、これからの住まいのあり方を試行錯誤している方の意見も是非お聞かせていただきたいと考えています。

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内覧会は完全予約制となっております。

内覧希望の方は、下記の内覧会申込フォームよりお申込みください。
折り返し住所などお知らせします。


コロナ対策として、マスクの着用お願いします。
また、当日体調の優れない方の参加はご遠慮ください。

なお、同時内覧の人数によっては、来場時間を調整させていただくことがあります。

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■ 場 所 : 神奈川県鎌倉市鎌倉山
■ 日 時 : 2022年6月25日(土)14時~16時
■ 交 通 : JR大船駅または鎌倉駅よりバス20分 
      バス停 鎌倉山下車 徒歩5分

※終了いたしました。

    「鎌倉山の家」内覧会申し込みフォーム

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    「鎌倉山の家」擁壁上に立つ家

    高低差のある土地の計画 鎌倉編①

    鎌倉山の家 屋根からの景色

    上の写真は、現在鎌倉で建築中の物件の屋根の上からの風景です。

    この土地を建て主が購入する前は、築数十年経過したうえに、かなり長期間におよび住人不在で朽ち果ててしまった住居が佇んでいました。

    その土地で、既存建物の解体から工事が始まり約半年。ようやく足場が外れ,その姿を現しました。

    鎌倉山の家

    今回の土地は以前ご紹介した「国立の家」同様、高低差のある土地です。国立の土地よりも高低差があり、法規制のかかる2mを超える箇所がある土地であるため、計画にはいくつかのポイントがありました。

     

    ポイント その1・・・擁壁?建物?

    建物が建つ基礎部分は当然のことながら深基礎となり、建物の一部となります。一方、駐車場に対して庭の土を支えるRC壁は、擁壁なのか?建物の一部なのか?

    2mを超える擁壁は建築基準法88条により、擁壁を築造するための確認申請が必要になります。同時に、鎌倉市建築基準条例第5条もかかるため、確認申請前に市役所への相談が必要となります。

    さて、ここで庭の土を支えるRC壁を擁壁にすべきか、建物の一部とすべきか。これを慎重に検討する必要がありました。面積・構造・平均地盤面の算出・工事手順および工事期間・工事費用・・・そして各種申請手続き。

    様々な面から検討し、今回は建物の一部としています。そうすることで、『建築物の建築自体と不可分な一体の工事』とみなされ、都市計画法第4条第11項および政令第1条の特定工作物による開発行為に該当せず、開発許可制度に含まれる宅地造成工事の許可申請が不要となります。本来は宅地造成工事の許可が必要になる行為にある『2mを超える切土の行為』に該当することとなりますが、建築物の一部の場合は、これらの扱いから外れることとなります。これにより、宅地造成工事の許可申請と、擁壁築造のための確認申請が不要となり、建物としての申請することで、開発申請にかかる約2か月を短縮することができました。

    一方、このRC壁は庭の土圧がかかるため、構造的にはどうでしょうか。建物から延長した基礎に横から土が壁を押す力が生まれます。そのため、このままでは建物を支える以外の力も建物下にある深基礎が負担しなければならなります。これは鉄筋量やコンクリートの厚みに直結することから、構造上は縁を切り、建物を支える深基礎部と、庭の土圧を支える深基礎延長部分に力を分け、工事費用をできる限りおさえることとしました。

    また駐車場横深基礎部分には、RC壁で囲われた倉庫を設けることで、アウトドア用品はここにたっぷり収納できるようにしました。高低差がある土地であるほど、道路・駐車場レベルに設ける収納スペースは、物の搬入出の利便性を向上させる効果が絶大です。この倉庫を地階とし、地上2階地下1階の3層の建物となっています。

    深基礎・擁壁

    ↑ 建物一体としたRC擁壁と資材で見え隠れしている右側の倉庫壁

    高低差のある土地は、不動産上はマイナス評価として割安で売買されている場合が多いようですが、土地の高低差に対して建物を計画するには、どうしても土留めの壁面か深基礎が必要になります。これをどのようにプランのなかに配置して法規と工事費用を検討するかが高低差のある土地を計画する際の大きなポイントとなります。

    ポイント その2:▶高低差のある土地の計画 鎌倉編②

     


    太陽光を住宅設計でどう考えるか その5

    太陽光ブログ
    その1 太陽光発電、これまで強いて奨めなかった理由】(4/29up) 
    その2 太陽光発電、現在はお奨めするか…】(5/16up)
    その3 太陽光についてのレポート~発電利用編~】(5/19up)
    その4 太陽光についてのレポート~給湯利用編~】(5/24up)
    その5 太陽光活用設計手法~住宅の蓄電池化~】(5/30up)
    その6 太陽光活用設計手法~まとめ編~】(6/15up)

    太陽光活用設計手法~住宅の蓄電池化~

    今回は私たちが太陽光をどう利用しようとしているかお話しします。

    その1のブログでなぜ太陽光利用をお奨めしなかったかを話しました。誤解を招くと思い、触れませんでしたが、10年前の売電価格が40円/kWhの頃、割高に売れるということはその分誰かが負担することになり、これは住宅設計というより経済行為の話で、私たちの言うことではないと思ったからです。

    しかし今は、地球温暖化対策の緊急性の観点から、可能な限り再生可能エネルギーにシフトすべき段階に入っていると思い、それを最も効率よく活用する術は、多くの方と共有すべきと考え、このブログで公開しています。

    給湯器の奥に、エアコンの室外機が二つ並んでいるように見えますが、奥はヒートポンプ式「基礎蓄熱冷暖房用室外機」手前が「エアコン用室外機」です。

    太陽光発電で問題になるのは発電しない時間帯の電気どうするかです。解決方法は2つあります。

    「A:昼の発電余剰分を売電して、夜の電気購入費用の足しにする」
    「B:蓄電池使って夜まで電気を貯めておく」

    Aの場合、現在2022年の、売電価格が17円/kWhで、購入価格が19.88円/kWhの状況では、昼安く売って夜高く買うことになり、売らずに自家使用する方が得です。
    Bの場合、出力約5kWのパネルに対応した蓄電池の設置は200万円程で値が張ります。パネルと蓄電池を含めた費用の回収に25年程必要とする高価格で、蓄電池の寿命と経年変化での能力低減を考えると現実的ではありません。
    そこで、Aを選択せざるを得ないのですが、それならば、発電した電気を単価の安い売電にまわさず建築計画の工夫で、夜の電力消費を助ける方法を考えました。

    その仕組みは、基礎蓄熱冷暖房を導入することで、昼発電した電気をエネルギーとして建物に蓄積し、夜まで延長して活用できる建物構造とすることです。いわば、建物に蓄電池の役割を担ってもらうのです。

    基礎蓄熱冷暖房は、エアコンの室外機と同じ構造のヒートポンプの給湯器で作った専用の温水を、基礎コンクリートの中を循環させてコンクリート自体を温め、その後ゆっくり放熱する方法です。
    通常の基礎蓄熱は夜の安い電気で基礎コンクリートに蓄熱し、日中に放熱させますが、太陽光発電と組み合わせて導入した場合、発電している昼にヒートポンプを稼働させて蓄熱させ、冷えてくる夜に放熱させます。
    床暖房のように床面が温かい訳ではありません。スイッチのオンオフも朝夕にするのではなく、晩秋に入れて、春口に切ります。冷まさない暖房方式です。
    また、ヒートポンプの室外機はお湯の温度を制御できるので、夏も冷房に活用できます。夏も冷水を送ることで基礎を冷やし建物全体を冷やします。但し、即効性がないので、すぐに効かせたいためにエアコンを一台用意しておくようにしています。

    私たちは、この手法で数十件の実績があります。建物全体が、気密性が高く、熱を逃がしにくい構造であるほどこの手法が生きるので、外壁だけでなく屋根も基礎下も外断熱で包むようにしています。床下温度を保つため通常の床下換気はできないのですが、夏は床下に湿気を溜めると腐敗やカビの原因になりますので、そこは設計上の工夫が必要です。

    基礎断熱冷暖房設備の施工の様子。べた基礎のコンクリートの打設前に、温冷水を流すための架橋ポリエチレン管を配管。蓄熱体となるコンクリートが外気温の影響を受けにくいように、基礎下も立ち上がり壁も断熱材で包んでいます。

    コンクリート造の外断熱であれば、基礎以外にも壁や屋根も蓄熱体として考えることができますが、住宅で外断熱のコンクリート造にできる程、建築費に余裕がある機会はそれほど多くありません。一戸建て住宅の多くは木造住宅ですから、蓄熱性能の高い木造のあり方を考える必要があります。
    通常の木造の在来工法は、柱と柱の間は構造用合板や筋交いが入っており、隙間の空洞に断熱材を入れています。ですから断熱性はあっても蓄熱性があるとは言えません。

    断熱材を入れる前の一般的な在来工法の壁の中

    かねてより結設計で取り組んでいるFSU工法は、柱の間を柱と同じ角材を緊結して作った壁パネルで構成しています。壁パネルは密実な木のかたまりなので、熱容量が大きく、それ自体が蓄熱体にもなる性能を有している上に、断熱性能と構造強度、さらには燃え代耐火性能を持っています。また、デザイン的には木現しの仕上げにもなり、木の温かみを感じることができます。

    FSU工法の壁。柱と同じ大きさの角材を相互に緊結しており木のかたまりが構造体になっている

     

    この工法は基礎蓄熱冷暖房と相性がいい工法と言えます。興味のある方は、FSU工法の紹介過去のブログを併せてご覧ください。近々FSU工法の住宅が着工いたしますので、それもブログを通じてご報告できればと思っています。

    ここまで全5回の太陽光ブログにお付き合いくださいましてありがとうございました。太陽光ひとつとっても、住宅設計ではその都度、諸条件が異なり、何が最適解なのか単純に決められないと感じています。これからも新しい情報を集めて、よく吟味し、なるべく再生可能エネルギーを効果的に活用する提案をしていきたいと思います。

    尚、このシリーズでは個々の仕組みの説明が長くなって分かりにくい思いをさせてしまいました。次回その6 太陽光活用、まとめ編では分かり易く簡単に説明します。


    太陽光を住宅設計でどう考えるか その4

    太陽光ブログ
    その1 太陽光発電、これまで強いて奨めなかった理由】(4/29up) 
    その2 太陽光発電、現在はお奨めするか…】(5/16up)
    その3 太陽光についてのレポート~発電利用編~】(5/19up)
    その4 太陽光についてのレポート~給湯利用編~】(5/24up)
    その5 太陽光活用設計手法~住宅の蓄電池化~】(5/30up)
    その6 太陽光活用設計手法~まとめ編~】(6/15up)

    太陽光についてのレポート~給湯利用編

    電気と同じく住宅の大切なインフラであるガスですが、昨今、電気料金と同じくガス料金も値上がりしています。寒い冬は毎日暖かいお風呂に入りたいですし、食器もお湯で洗わないと油汚れが落ちません。冬場、驚くほどガス代が高かった経験は誰にでもあると思います。

     太陽熱温水器
    十数年前にはよく見かけた、給湯タンク一体型の 太陽熱温水器 。 現在は重量のあるタンクは地面に設置しているものもある。


    オール電化ではない場合、住宅で使うガスは2種類です。一つ目はキッチンのガスコンロ、二つ目は給湯器です。給湯器は水を温め、シャワー、風呂、洗面台などにお湯を送ります。家庭のガスの使用量の75%が給湯器と言われていますので、より効率の良い給湯方法を考えることは重要なことではないでしょうか。
    今回は太陽光発電に関連して、2つの給湯方法について調べたことをお話ししたいと思います。

    一般的なソーラーシステムの模式図

    〇太陽熱給湯( 太陽熱温水器 )システムについて

    太陽熱給湯システムとは、屋根に施工したパネルで集熱をし、お湯を作り出す簡単なしくみで、上部の写真のように昔から使われています。
    太陽光発電の太陽光エネルギーの利用効率は製品やメーカーによって違いはあるものの、通常のものは7~18%程度です。それに比べて、太陽熱を使って温水を作り、給湯に利用する太陽熱利用のエネルギー利用効率は40~60%ですので、太陽熱利用の給湯はとても効率が良いことが分かります。
    屋根にパネルとタンク付いた太陽熱温水器は今は殆ど見かけなくなりました。最近の太陽熱給湯はタンクを地面に設置し、パネルの熱で温められた冷媒でタンクの中の水を温めます。そこから湯沸かし器に接続し、タンクのお湯がなくなったり温度が低い場合のみ湯沸かし器が作動する仕組みになっています。このタイプは初期費用は300リットルの蓄熱タンク付きで、約90~100万円程度で、月々のガス代を考えると費用回収できるのが10年前後で、それ以降の給湯にかかる費用は殆ど無料になります。

    〇エコキュートについて

    一方、電力で効率よくお湯を沸かす方法として「エコキュート」をご存じの方も多いかと思います。これは、ヒートポンプで空気を圧縮したときにできる熱を利用することで、少ない電力で熱を生み出すしくみです。

    エコキュートを設置した事例(手前がヒートポンプ室外機、奥が貯水タンク)

    初期費用としてはヒートポンプとタンクを合わせて60万くらいかかりますが、深夜の安い電気料金帯の間に電気でお湯を沸かして貯めておけるため、給湯分のガス代が不要になります。東京電力には、エコキュートなどの夜間蓄熱式機器(総容量が1kVA以上)を使う人が加入できる深夜料金が安いスマートライフというプランもあります。

    スマートライフS・L AM1:00~AM6:00 【深夜】 AM6:00~AM1:00 【その他】
    17.78円/kWh 25.80円/kWh

    太陽光パネルとエコキュートを併せて設置するのであれば、昼間発電して使いきれなかった余剰分の電力を売電に回さず、夜使うお湯を昼間にエコキュートで作っておく方法もあります。発電分を自家用として使う比率を上げ、夜電気の購入を減らす方法の一つではないでしょうか。この組み合わせは、どの程度発電ができるのか、どの程度発電した電気を給湯に回せるのか等々の諸条件で変わってきますので、注意すべきです。

    どのように導入にするにしても、太陽のエネルギーを建築としてどう採取し、どう蓄積させ、どう活用すべきかを考えて、住まいづくりの計画や設計をする必要がありそうです。


    第4回まで続いたこの太陽光ブログですが、いよいよ次回は、これらのことをふまえた私共の設計手法についてお話ししたいと思います。
    次回【その5 太陽光活用設計手法~住宅の蓄電池化~】(2022年5月30日upしました)是非ご覧になってください。


    太陽光を住宅設計でどう考えるか その3

    太陽光ブログ
    その1 太陽光発電、これまで強いて奨めなかった理由】(4/29up) 
    その2 太陽光発電、現在はお奨めするか…】(5/16up)
    その3 太陽光についてのレポート~発電利用編~】(5/19up)
    その4 太陽光についてのレポート~給湯利用編~】(5/24up)
    その5 太陽光活用設計手法~住宅の蓄電池化~】(5/30up)
    その6 太陽光活用設計手法~まとめ編~】(6/15up)

    太陽光についてのレポート~発電利用編

    他所で見つけた、ベランダで簡易な発電をしている方の例。布団干しの上に置かれているのが折り畳み式の太陽光パネルで、奥の赤いポータブル蓄電池にケーブルを繋いで電気を溜めている。最大400Whを溜めておけるのでスマホ充電+αは十分に賄うことができ、災害時やキャンプなどで活用する人も。

    太陽光を導入する理由は、環境にやさしいエネルギーだから、停電時など非常用の備えとして、などいろいろな理由はありますが、やはり気になるのが年々上がっていく電気料金ではないでしょうか。これから下がる見通しもない中で、自衛手段として太陽光発電はどうだろうと検討する方も増えているようです。これからの建築について、どんな導入方法がいいのか調べて考えたことをレポートします。

    太陽光発電、導入ケーススタディ

    例えば夫婦二人暮らしのある家の昨年の電気料金を調べてみると、季節によりばらつきはありますが、ひと月200~500kWhほど使っていました。電気代は1万円程です。その家に出力4.5kWの太陽光発電パネルを設置したと仮定します。ひと月の発電量は平均450kWh程度ですので、単純に発電量と使用量で比較すればほぼ太陽光でまかなえます。しかし蓄電池がなければ、発電できない夜に使う電気は購入する必要があります。

    その家の電気利用状況を調べると、日中(太陽が出ている間)と夜間の電気使用量の比率は大体半々くらいだったので、仮にひと月、昼200kWh、夜200kWh使ったとします。

    ひと月で450kWh発電するとして、昼分200kWhは発電分で賄い、余剰分250kWhは売電します。売電単価17円/kWhで、4,250円で売れました。

    夜分200kWhは購入します。電気料金の一例として、東京電力のスタンダードプランの料金体系ですと、最初の120kWhまでは19.88円/kWh、121~300kWhは26.46円/kWhですので、19.88円 × 120kWh+24.46円 × 80kWh=4,342円になります。夜トクプランという料金体系もありますが、日没~PM9:00は34.49円/kWh、PM9:00~AM9:00までは22.97円/kWhかかるので、スタンダードプランがよさそうです。

    基本料金や再エネ賦課金などを含めると、実際に支払う電気料金は6千円くらいはかかりそうです。売電で得た分を差し引きすると月に2千円の持ち出しで、電気料金をまかなえることになります。

    スタンダードプラン ~120kWh 121~300kWh 301kWh~
    19.88円/kWh 24.46円/kWh 30.57円/kWh
    夜トクプラン12
    AM9:00~PM9:00【日中】 PM9:00~AM9:00【夜間】
    34.49円/kWh 22.97円/kWh

     

    〇 蓄電池について

    発電できない夜間や悪天候時の購入分が多くなるとそれだけ損になってしまいます。その間も自家発電で賄おうとすると、蓄電池を設置し日中作った電気を貯めておく必要があります。しかし蓄電池は200~250万と高額で、太陽光パネルと蓄電池を合わせた初期費用の回収年数は30年程度かかりますが、蓄電池の能力保証は10年程度なのです。蓄電池の購入や設置には補助金が利用できますが、それでも高額なので軽々にお奨めできません。
    また、電気自動車を所有しているのであれば、発電して使いきれなかった電力を車に貯めることができます。ただ、車に貯めた電力を家の中で使うには、V2H(Vehicle to Home)システムというものが追加で必要になります。V2Hシステムは、電気自動車を自宅の蓄電池のように使用することができるものですが、V2H機器を購入するには蓄電池導入と同じくらいのコストがかかるようです。

    蓄電池がなくても、停電時に発電中なら自立運転モードに切り替えて自家発電した電気を1,500Wまでは使うことができますし、家庭用の小型発電機やポータブル蓄電池を備えて置くことも一つの手です。

    マンションの掃除等にも活用されている小型発電機

    太陽のエネルギーを利用する「ソーラー (solar:太陽の)」 と呼ばれるものには「太陽光」を発電に使う方法のほかに、「太陽光」を熱として使う方法もあります。これについては長くなってしまったので、次回のブログでお話ししたいと思います。是非併せてご覧下さい。
    その4 太陽光についてのレポート~給湯利用編~(2022年5月24日アップしました)


    太陽光を住宅設計でどう考えるか その2

    太陽光ブログ
    その1 太陽光発電、これまで強いて奨めなかった理由】(4/29up) 
    その2 太陽光発電、現在はお奨めするか…】(5/16up)
    その3 太陽光についてのレポート~発電利用編~】(5/19up)
    その4 太陽光についてのレポート~給湯利用編~】(5/24up)
    その5 太陽光活用設計手法~住宅の蓄電池化~】(5/30up)
    その6 太陽光活用設計手法~まとめ編~】(6/15up)

    太陽光発電、現在はお奨めするか…

    パネル施工業者が事前に決まっており、直接ビス打ち固定することが事前にわかっていたため、アスファルトシングル葺を採用した例。アスファルトシングル葺きは屋根材が自体が柔らかいのでビス固定に追随しやすく、金属葺に穴をあけられてしまうよりは漏水リスクが少ないと判断した。

    前回のブログその1 太陽光発電、これまで強いて奨めなかった理由では、強く推奨しなかった理由をお話ししました。それでは、私どもが懸念していたことが、現在はどう状況が変化していたかお伝えしたいと思います。

    1 初期の太陽光パネルは、設置後に生み出す電気量の7年分ほどをそのパネルの生産に消費していました。使用素材や製品構造にもよりますが、現在の太陽光パネルは、2年分ほどの電気量で製作できるように進歩しているようです。

    2  太陽光パネルの設置費を電気代で回収するのに10年かかるにもかかわらず、発電と蓄電能力は数年でかなり減衰すると言われていました。今も、太陽光発電パネルの設置費を「売電利益」+「太陽光発電したものを自家使用し他から電気を購入しなくてよくなった金額分」で割ると、やはり10年はかかります。設置費用は年々安くなっているのですが、売電価格もそれに伴い年々安くなっているからです。逆に言うと大体10年間で回収できるように売電価格が調整されていて、その間売電価格は一定であることが保証されています(FIT制度)。この点については、今も昔も条件は変わらないということです。
    一方、パネル自身の発電能力は上がってきており、15年程度なら殆ど減衰せず、8~9割に減衰するのは約25年経過したころだそうです。ただし、太陽との角度が効率よく発電できる状態での設置という条件付きではあります。

    3 太陽光パネルの取り付け方として、パネルメーカー指定業者の施工で、金属葺の屋根面に直接ビスを打ちシールで雨水を止めるやり方には雨漏りに対して不安があったのですが、今もそのように施工されていることもあるようです。ですが、屋根にビスで穴はあけず、掴み金物を屋根材に挟み込んで支持補強材を取り付けるやり方も増えてきています。取り付け方をどうするかは、設計段階からよく吟味すれば雨漏りのリスクはクリアできそうです。

    金属葺きの屋根に穴をあけることなく、つかみ金物でソーラーパネルの支持補強材を取り付けた例

    4 建築全体の予算が限られている場合、建物完成後でも施工可能な太陽光パネルより、建設時でないと施工できない重要な他の仕様を優先していました。それはパネルは金銭的な余裕が出来た段階でも後乗せ可能と考えていたからです。しかし最近は建設時に太陽光発電用のパネルを初期費用をかけずにリースで設置する方法も出てきました。約2.5万円/月のリース料を5年かけて支払った後は、建主に無償譲渡される仕組みです。最初から導入するのであれば、太陽光発電と相性のいい建築を計画することができます。予算の面でもやり方によっては検討できることが分かりました。

      発電量(kWh/月) 設置費用(千円) 25年間の保守費用(千円) 設置費用の回収にかかる期間(年)
    自己設置 609 1,740 225 10~11
    リース 600 1,537 318 12~13

    ↑ 6~7kW出力のパネルのリースと自己設置との比較。発電能力や設置コストにさほど違いがないのが分かる

    これを機に太陽光について調べていくと、いろいろなことが分かりましたので、次回のブログ【その3 太陽光についてのレポート~発電利用編~】(2022年5月19日アップしました)では、そこで分かったことをレポートしてみたいと思います。導入を検討する参考になれば幸いです。


    「国立の家・敷地内崖(段差)活用」アップ

    設計事例国立の家・敷地内崖(段差)活用を追加しました。
    道路から一段上がった敷地に建てた住宅です。
    敷地内に段差がある土地で家づくりを考えている方の参考になればと思います。
    是非御覧ください。

    この「国立の家」設計をしていく過程で、設計者が考えたことをまとめたブログ記事「設計では何をするのか・間取り計画で着目と工夫した点「国立の家」」も併せて御覧ください。


    太陽光 を住宅設計でどう考えるか その1

    太陽光 ブログ
    【その1 太陽光発電、これまで強いて奨めなかった理由】(4/29up) 
    その2 太陽光発電、現在はお奨めするか…】(5/16up)
    その3 太陽光についてのレポート~発電利用編~】(5/19up)
    その4 太陽光についてのレポート~給湯利用編~】(5/24up)
    その5 太陽光活用設計手法~住宅の蓄電池化~】(5/30up)

    太陽光発電、これまで強いて奨めなかった理由

    これまで何件か太陽光発電パネルを乗せた設計をしましたが、積極的には奨めてはいませんでした。最近地球温暖化での脱炭素やSDGs対応で、国の後押しもあり、太陽光発電パネルを屋根に載せることを検討する方が多くなってきたようです。しかし売電価格11年前の48円/kWhから2022年は17円/kWhになり、今では最低の買電価格19.88円/kWhを下回っています。設置後10年間はFIT制度により売電価格が維持されますが、卒FITを迎えた10年後の売電価格はさらに下がり8.5円/kWh程度だそうです。そうなると売電を目的として設置をする方よりも、今後電気料金がさらに上昇すると見込んで自家用消費のために設置する方が多いと思われます。

    これまで太陽光パネルを住宅の屋根に乗せることを強く推奨はしませんでしたが、色々考え直すこともあり、改めて検討してみたいと思います。但し今後提示する数値は現場での感覚的報告のためアバウトで、かつ変化している場合もあり、実際での採用時にはご自分でも再確認ください。

    まず、なぜ強く推奨しなかったのか、その当時の理由を挙げてみます。

    1 初期の太陽光パネルは、設置後に得られる電気量の7年分ほどをそのパネルの生産に消費してしまうとのことで、エコになるか疑問を覚えたからです。

    2 太陽光パネルは工事費を電気代で回収するのに、10年かかると言われていましたが、発電と蓄電能力は数年でかなり減衰すると言われていました。

    3 取り付け方は、パネルメーカー指定の工事者による施工の際、金属葺の屋根面直接ビスを打ち、シールで雨水を止めるやり方が多く、建築と同じ10年補償とは言え、不安を覚えたからです。そこで私は乗せる場合の屋根仕上げや、取り付け方は色々安全な対策を施しました。

    4 建築全体の予算が限られている場合が多く、建物完成後でも施工可能な太陽光パネルより、建築工事中でないと施工できないより重要な他の仕様を優先しました。これには今後発電能力の高い製品が出る可能性もあるだろうと考えていたこともあります。

    以上が太陽光発電を今まで、私たちが強く推奨していなかった理由です。ですが、太陽光発電が出始めたころから性能も進化していることや、環境や防災に対する意識の高まってきたことなど、状況が変化していったこともあり、現在は考えが変わってきています。

    現在の考えを、次回その2 太陽光発電、現在はお奨めするか…(2022年5月16日アップしました)にレポートします。これから数回にわたり太陽光ブログを書きますので、よろしくお付き合いください。

    太陽光発電パネルの取り付け工事例。道路面から殆ど見えない南面と西面の屋根に施工しました。

     


    地縄張りと地鎮祭(相模湾が見える家)

    地鎮祭の前に建物が敷地のどこに建つか、壁の位置を紐で示した地縄張り

    先週土曜日、伊豆高原で地鎮祭に立ち会ってきました。白い紐が建物の壁の位置です。その周囲の境界との距離が最もベストな位置になっているかを確認するために地縄を張って確認します。

    北側隣地の樹木が空に映えていて気持ちの良い日よりでした。

    こちらの建て主さんが私共を知ったきっかけは、設計事例にもある「伊豆の家 」とのことです。伊豆の家の建て主さんが生まれ故郷に移住するということで、土地建物を売りに出され、それを見た今回の建て主さんが気に入って頂き、私共に訪ねて来られたとのことでした。伊豆の家を購入して改修するか、他の土地に新たに建てた方がいいか、話を聞きにいらっしゃいました。つまり18年前の自分と今の自分が競い合うことになり、昔の自分より秀でていたかどうかは定かでありませんが、何とか今の私に進めさせていただくことになり、地鎮祭の運びとなりました。

    建物中央南向きに竹を4本立て、祭壇をセットして神主さんが祝詞をあげています。

    伊豆高原には今回の家で、私どもが設計した住宅が、「伊豆高原の家 」を含めて3軒建つことになります。当然ながら帰りに伊豆高原の家に立ち寄ってご挨拶させていただきました。元気に暮らしていらっしゃって、相変わらず庭づくりに精を出されていて、益々輝きを増していました。お暇する際、何も手土産持たず立ち寄ったのに、私と藁科に庭の竹林で取れた筍をお土産にいただいてしまいました。

    筍を取られた竹林は整備が最も厄介なのですが、しっかりと手入れがされていました。
    庭の中央に見事な盆栽が新しく据えられていました。