投稿者: 藤原昭夫

太陽光を住宅設計でどう考えるか その4

太陽光ブログ
その1 太陽光発電、これまで強いて奨めなかった理由】(4/29up) 
その2 太陽光発電、現在はお奨めするか…】(5/16up)
その3 太陽光についてのレポート~発電利用編~】(5/19up)
その4 太陽光についてのレポート~給湯利用編~】(5/24up)
その5 太陽光活用設計手法~住宅の蓄電池化~】(5/30up)
その6 太陽光活用設計手法~まとめ編~】(6/15up)

太陽光についてのレポート~給湯利用編

電気と同じく住宅の大切なインフラであるガスですが、昨今、電気料金と同じくガス料金も値上がりしています。寒い冬は毎日暖かいお風呂に入りたいですし、食器もお湯で洗わないと油汚れが落ちません。冬場、驚くほどガス代が高かった経験は誰にでもあると思います。

 太陽熱温水器
十数年前にはよく見かけた、給湯タンク一体型の 太陽熱温水器 。 現在は重量のあるタンクは地面に設置しているものもある。


オール電化ではない場合、住宅で使うガスは2種類です。一つ目はキッチンのガスコンロ、二つ目は給湯器です。給湯器は水を温め、シャワー、風呂、洗面台などにお湯を送ります。家庭のガスの使用量の75%が給湯器と言われていますので、より効率の良い給湯方法を考えることは重要なことではないでしょうか。
今回は太陽光発電に関連して、2つの給湯方法について調べたことをお話ししたいと思います。

一般的なソーラーシステムの模式図

〇太陽熱給湯( 太陽熱温水器 )システムについて

太陽熱給湯システムとは、屋根に施工したパネルで集熱をし、お湯を作り出す簡単なしくみで、上部の写真のように昔から使われています。
太陽光発電の太陽光エネルギーの利用効率は製品やメーカーによって違いはあるものの、通常のものは7~18%程度です。それに比べて、太陽熱を使って温水を作り、給湯に利用する太陽熱利用のエネルギー利用効率は40~60%ですので、太陽熱利用の給湯はとても効率が良いことが分かります。
屋根にパネルとタンク付いた太陽熱温水器は今は殆ど見かけなくなりました。最近の太陽熱給湯はタンクを地面に設置し、パネルの熱で温められた冷媒でタンクの中の水を温めます。そこから湯沸かし器に接続し、タンクのお湯がなくなったり温度が低い場合のみ湯沸かし器が作動する仕組みになっています。このタイプは初期費用は300リットルの蓄熱タンク付きで、約90~100万円程度で、月々のガス代を考えると費用回収できるのが10年前後で、それ以降の給湯にかかる費用は殆ど無料になります。

〇エコキュートについて

一方、電力で効率よくお湯を沸かす方法として「エコキュート」をご存じの方も多いかと思います。これは、ヒートポンプで空気を圧縮したときにできる熱を利用することで、少ない電力で熱を生み出すしくみです。

エコキュートを設置した事例(手前がヒートポンプ室外機、奥が貯水タンク)

初期費用としてはヒートポンプとタンクを合わせて60万くらいかかりますが、深夜の安い電気料金帯の間に電気でお湯を沸かして貯めておけるため、給湯分のガス代が不要になります。東京電力には、エコキュートなどの夜間蓄熱式機器(総容量が1kVA以上)を使う人が加入できる深夜料金が安いスマートライフというプランもあります。

スマートライフS・L AM1:00~AM6:00 【深夜】 AM6:00~AM1:00 【その他】
17.78円/kWh 25.80円/kWh

太陽光パネルとエコキュートを併せて設置するのであれば、昼間発電して使いきれなかった余剰分の電力を売電に回さず、夜使うお湯を昼間にエコキュートで作っておく方法もあります。発電分を自家用として使う比率を上げ、夜電気の購入を減らす方法の一つではないでしょうか。この組み合わせは、どの程度発電ができるのか、どの程度発電した電気を給湯に回せるのか等々の諸条件で変わってきますので、注意すべきです。

どのように導入にするにしても、太陽のエネルギーを建築としてどう採取し、どう蓄積させ、どう活用すべきかを考えて、住まいづくりの計画や設計をする必要がありそうです。


第4回まで続いたこの太陽光ブログですが、いよいよ次回は、これらのことをふまえた私共の設計手法についてお話ししたいと思います。
次回【その5 太陽光活用設計手法~住宅の蓄電池化~】(2022年5月30日upしました)是非ご覧になってください。


太陽光を住宅設計でどう考えるか その3

太陽光ブログ
その1 太陽光発電、これまで強いて奨めなかった理由】(4/29up) 
その2 太陽光発電、現在はお奨めするか…】(5/16up)
その3 太陽光についてのレポート~発電利用編~】(5/19up)
その4 太陽光についてのレポート~給湯利用編~】(5/24up)
その5 太陽光活用設計手法~住宅の蓄電池化~】(5/30up)
その6 太陽光活用設計手法~まとめ編~】(6/15up)

太陽光についてのレポート~発電利用編

他所で見つけた、ベランダで簡易な発電をしている方の例。布団干しの上に置かれているのが折り畳み式の太陽光パネルで、奥の赤いポータブル蓄電池にケーブルを繋いで電気を溜めている。最大400Whを溜めておけるのでスマホ充電+αは十分に賄うことができ、災害時やキャンプなどで活用する人も。

太陽光を導入する理由は、環境にやさしいエネルギーだから、停電時など非常用の備えとして、などいろいろな理由はありますが、やはり気になるのが年々上がっていく電気料金ではないでしょうか。これから下がる見通しもない中で、自衛手段として太陽光発電はどうだろうと検討する方も増えているようです。これからの建築について、どんな導入方法がいいのか調べて考えたことをレポートします。

太陽光発電、導入ケーススタディ

例えば夫婦二人暮らしのある家の昨年の電気料金を調べてみると、季節によりばらつきはありますが、ひと月200~500kWhほど使っていました。電気代は1万円程です。その家に出力4.5kWの太陽光発電パネルを設置したと仮定します。ひと月の発電量は平均450kWh程度ですので、単純に発電量と使用量で比較すればほぼ太陽光でまかなえます。しかし蓄電池がなければ、発電できない夜に使う電気は購入する必要があります。

その家の電気利用状況を調べると、日中(太陽が出ている間)と夜間の電気使用量の比率は大体半々くらいだったので、仮にひと月、昼200kWh、夜200kWh使ったとします。

ひと月で450kWh発電するとして、昼分200kWhは発電分で賄い、余剰分250kWhは売電します。売電単価17円/kWhで、4,250円で売れました。

夜分200kWhは購入します。電気料金の一例として、東京電力のスタンダードプランの料金体系ですと、最初の120kWhまでは19.88円/kWh、121~300kWhは26.46円/kWhですので、19.88円 × 120kWh+24.46円 × 80kWh=4,342円になります。夜トクプランという料金体系もありますが、日没~PM9:00は34.49円/kWh、PM9:00~AM9:00までは22.97円/kWhかかるので、スタンダードプランがよさそうです。

基本料金や再エネ賦課金などを含めると、実際に支払う電気料金は6千円くらいはかかりそうです。売電で得た分を差し引きすると月に2千円の持ち出しで、電気料金をまかなえることになります。

スタンダードプラン ~120kWh 121~300kWh 301kWh~
19.88円/kWh 24.46円/kWh 30.57円/kWh
夜トクプラン12
AM9:00~PM9:00【日中】 PM9:00~AM9:00【夜間】
34.49円/kWh 22.97円/kWh

 

〇 蓄電池について

発電できない夜間や悪天候時の購入分が多くなるとそれだけ損になってしまいます。その間も自家発電で賄おうとすると、蓄電池を設置し日中作った電気を貯めておく必要があります。しかし蓄電池は200~250万と高額で、太陽光パネルと蓄電池を合わせた初期費用の回収年数は30年程度かかりますが、蓄電池の能力保証は10年程度なのです。蓄電池の購入や設置には補助金が利用できますが、それでも高額なので軽々にお奨めできません。
また、電気自動車を所有しているのであれば、発電して使いきれなかった電力を車に貯めることができます。ただ、車に貯めた電力を家の中で使うには、V2H(Vehicle to Home)システムというものが追加で必要になります。V2Hシステムは、電気自動車を自宅の蓄電池のように使用することができるものですが、V2H機器を購入するには蓄電池導入と同じくらいのコストがかかるようです。

蓄電池がなくても、停電時に発電中なら自立運転モードに切り替えて自家発電した電気を1,500Wまでは使うことができますし、家庭用の小型発電機やポータブル蓄電池を備えて置くことも一つの手です。

マンションの掃除等にも活用されている小型発電機

太陽のエネルギーを利用する「ソーラー (solar:太陽の)」 と呼ばれるものには「太陽光」を発電に使う方法のほかに、「太陽光」を熱として使う方法もあります。これについては長くなってしまったので、次回のブログでお話ししたいと思います。是非併せてご覧下さい。
その4 太陽光についてのレポート~給湯利用編~(2022年5月24日アップしました)


太陽光を住宅設計でどう考えるか その2

太陽光ブログ
その1 太陽光発電、これまで強いて奨めなかった理由】(4/29up) 
その2 太陽光発電、現在はお奨めするか…】(5/16up)
その3 太陽光についてのレポート~発電利用編~】(5/19up)
その4 太陽光についてのレポート~給湯利用編~】(5/24up)
その5 太陽光活用設計手法~住宅の蓄電池化~】(5/30up)
その6 太陽光活用設計手法~まとめ編~】(6/15up)

太陽光発電、現在はお奨めするか…

パネル施工業者が事前に決まっており、直接ビス打ち固定することが事前にわかっていたため、アスファルトシングル葺を採用した例。アスファルトシングル葺きは屋根材が自体が柔らかいのでビス固定に追随しやすく、金属葺に穴をあけられてしまうよりは漏水リスクが少ないと判断した。

前回のブログその1 太陽光発電、これまで強いて奨めなかった理由では、強く推奨しなかった理由をお話ししました。それでは、私どもが懸念していたことが、現在はどう状況が変化していたかお伝えしたいと思います。

1 初期の太陽光パネルは、設置後に生み出す電気量の7年分ほどをそのパネルの生産に消費していました。使用素材や製品構造にもよりますが、現在の太陽光パネルは、2年分ほどの電気量で製作できるように進歩しているようです。

2  太陽光パネルの設置費を電気代で回収するのに10年かかるにもかかわらず、発電と蓄電能力は数年でかなり減衰すると言われていました。今も、太陽光発電パネルの設置費を「売電利益」+「太陽光発電したものを自家使用し他から電気を購入しなくてよくなった金額分」で割ると、やはり10年はかかります。設置費用は年々安くなっているのですが、売電価格もそれに伴い年々安くなっているからです。逆に言うと大体10年間で回収できるように売電価格が調整されていて、その間売電価格は一定であることが保証されています(FIT制度)。この点については、今も昔も条件は変わらないということです。
一方、パネル自身の発電能力は上がってきており、15年程度なら殆ど減衰せず、8~9割に減衰するのは約25年経過したころだそうです。ただし、太陽との角度が効率よく発電できる状態での設置という条件付きではあります。

3 太陽光パネルの取り付け方として、パネルメーカー指定業者の施工で、金属葺の屋根面に直接ビスを打ちシールで雨水を止めるやり方には雨漏りに対して不安があったのですが、今もそのように施工されていることもあるようです。ですが、屋根にビスで穴はあけず、掴み金物を屋根材に挟み込んで支持補強材を取り付けるやり方も増えてきています。取り付け方をどうするかは、設計段階からよく吟味すれば雨漏りのリスクはクリアできそうです。

金属葺きの屋根に穴をあけることなく、つかみ金物でソーラーパネルの支持補強材を取り付けた例

4 建築全体の予算が限られている場合、建物完成後でも施工可能な太陽光パネルより、建設時でないと施工できない重要な他の仕様を優先していました。それはパネルは金銭的な余裕が出来た段階でも後乗せ可能と考えていたからです。しかし最近は建設時に太陽光発電用のパネルを初期費用をかけずにリースで設置する方法も出てきました。約2.5万円/月のリース料を5年かけて支払った後は、建主に無償譲渡される仕組みです。最初から導入するのであれば、太陽光発電と相性のいい建築を計画することができます。予算の面でもやり方によっては検討できることが分かりました。

  発電量(kWh/月) 設置費用(千円) 25年間の保守費用(千円) 設置費用の回収にかかる期間(年)
自己設置 609 1,740 225 10~11
リース 600 1,537 318 12~13

↑ 6~7kW出力のパネルのリースと自己設置との比較。発電能力や設置コストにさほど違いがないのが分かる

これを機に太陽光について調べていくと、いろいろなことが分かりましたので、次回のブログ【その3 太陽光についてのレポート~発電利用編~】(2022年5月19日アップしました)では、そこで分かったことをレポートしてみたいと思います。導入を検討する参考になれば幸いです。


「国立の家・敷地内崖(段差)活用」アップ

設計事例国立の家・敷地内崖(段差)活用を追加しました。
道路から一段上がった敷地に建てた住宅です。
敷地内に段差がある土地で家づくりを考えている方の参考になればと思います。
是非御覧ください。

この「国立の家」設計をしていく過程で、設計者が考えたことをまとめたブログ記事「設計では何をするのか・間取り計画で着目と工夫した点「国立の家」」も併せて御覧ください。


太陽光 を住宅設計でどう考えるか その1

太陽光 ブログ
【その1 太陽光発電、これまで強いて奨めなかった理由】(4/29up) 
その2 太陽光発電、現在はお奨めするか…】(5/16up)
その3 太陽光についてのレポート~発電利用編~】(5/19up)
その4 太陽光についてのレポート~給湯利用編~】(5/24up)
その5 太陽光活用設計手法~住宅の蓄電池化~】(5/30up)

太陽光発電、これまで強いて奨めなかった理由

これまで何件か太陽光発電パネルを乗せた設計をしましたが、積極的には奨めてはいませんでした。最近地球温暖化での脱炭素やSDGs対応で、国の後押しもあり、太陽光発電パネルを屋根に載せることを検討する方が多くなってきたようです。しかし売電価格11年前の48円/kWhから2022年は17円/kWhになり、今では最低の買電価格19.88円/kWhを下回っています。設置後10年間はFIT制度により売電価格が維持されますが、卒FITを迎えた10年後の売電価格はさらに下がり8.5円/kWh程度だそうです。そうなると売電を目的として設置をする方よりも、今後電気料金がさらに上昇すると見込んで自家用消費のために設置する方が多いと思われます。

これまで太陽光パネルを住宅の屋根に乗せることを強く推奨はしませんでしたが、色々考え直すこともあり、改めて検討してみたいと思います。但し今後提示する数値は現場での感覚的報告のためアバウトで、かつ変化している場合もあり、実際での採用時にはご自分でも再確認ください。

まず、なぜ強く推奨しなかったのか、その当時の理由を挙げてみます。

1 初期の太陽光パネルは、設置後に得られる電気量の7年分ほどをそのパネルの生産に消費してしまうとのことで、エコになるか疑問を覚えたからです。

2 太陽光パネルは工事費を電気代で回収するのに、10年かかると言われていましたが、発電と蓄電能力は数年でかなり減衰すると言われていました。

3 取り付け方は、パネルメーカー指定の工事者による施工の際、金属葺の屋根面直接ビスを打ち、シールで雨水を止めるやり方が多く、建築と同じ10年補償とは言え、不安を覚えたからです。そこで私は乗せる場合の屋根仕上げや、取り付け方は色々安全な対策を施しました。

4 建築全体の予算が限られている場合が多く、建物完成後でも施工可能な太陽光パネルより、建築工事中でないと施工できないより重要な他の仕様を優先しました。これには今後発電能力の高い製品が出る可能性もあるだろうと考えていたこともあります。

以上が太陽光発電を今まで、私たちが強く推奨していなかった理由です。ですが、太陽光発電が出始めたころから性能も進化していることや、環境や防災に対する意識の高まってきたことなど、状況が変化していったこともあり、現在は考えが変わってきています。

現在の考えを、次回その2 太陽光発電、現在はお奨めするか…(2022年5月16日アップしました)にレポートします。これから数回にわたり太陽光ブログを書きますので、よろしくお付き合いください。

太陽光発電パネルの取り付け工事例。道路面から殆ど見えない南面と西面の屋根に施工しました。

 


地縄張りと地鎮祭(相模湾が見える家)

地鎮祭の前に建物が敷地のどこに建つか、壁の位置を紐で示した地縄張り

先週土曜日、伊豆高原で地鎮祭に立ち会ってきました。白い紐が建物の壁の位置です。その周囲の境界との距離が最もベストな位置になっているかを確認するために地縄を張って確認します。

北側隣地の樹木が空に映えていて気持ちの良い日よりでした。

こちらの建て主さんが私共を知ったきっかけは、設計事例にもある「伊豆の家 」とのことです。伊豆の家の建て主さんが生まれ故郷に移住するということで、土地建物を売りに出され、それを見た今回の建て主さんが気に入って頂き、私共に訪ねて来られたとのことでした。伊豆の家を購入して改修するか、他の土地に新たに建てた方がいいか、話を聞きにいらっしゃいました。つまり18年前の自分と今の自分が競い合うことになり、昔の自分より秀でていたかどうかは定かでありませんが、何とか今の私に進めさせていただくことになり、地鎮祭の運びとなりました。

建物中央南向きに竹を4本立て、祭壇をセットして神主さんが祝詞をあげています。

伊豆高原には今回の家で、私どもが設計した住宅が、「伊豆高原の家 」を含めて3軒建つことになります。当然ながら帰りに伊豆高原の家に立ち寄ってご挨拶させていただきました。元気に暮らしていらっしゃって、相変わらず庭づくりに精を出されていて、益々輝きを増していました。お暇する際、何も手土産持たず立ち寄ったのに、私と藁科に庭の竹林で取れた筍をお土産にいただいてしまいました。

筍を取られた竹林は整備が最も厄介なのですが、しっかりと手入れがされていました。
庭の中央に見事な盆栽が新しく据えられていました。

 


「崖上桜の家」アップ

設計事例崖上桜の家を追加しました。
二段擁壁の崖上に建てた 崖上の家 です。
崖上の土地で家づくりを考えている方の参考になればと思います。

是非御覧ください。


あきる野M邸ー崖下の家ー 上棟

崖下の家上棟
崖の下に家を建てる

あきる野M邸上棟しました。崖と道路に挟まれた南北に細長い敷地に建つ平屋建てです。
裏がすぐ崖になっている土地で、崖下の土地に建てる家です。がけや擁壁下の土地の場合、通常はがけ・擁壁から距離を取って建てる必要があるので、崖・擁壁からの距離が取れないこのような敷地の場合は、通常の建て方では木造の家は建てられません。

「がけ」とは地表面が水平面に対し30度を超える角度をなし、かつ、その高さが2メートルを超える土地をいいます。

※がけ地近くの敷地に対する制限等は、その土地がある都道府県の「がけ条例(崖条例)」によります。

がけや擁壁のある敷地例についてのブログ記事▷「崖や擁壁のある敷地の計画、県条例に注意」もご覧ください。

工事を始める前の敷地の様子。
敷地の西側(写真左)が「がけ(崖)」で、正面の幅が狭い平らな部分に建物を建てていきます。

 

崖の下に家を建てるには

仮にこの崖が崩れた場合、そのまま何も考えずに崖下に建てた建物は、土砂に埋まってしまうことになってしまします。

そのため、このがけの崩壊に対して安全であるための対処をしなければなりません。

地盤が強固で崩壊しないことを証明すること(がけの地盤調査・構造計算が必要)という方法もありますが、強固ではない崖の方が多いので、この方法が取れる崖は少ないと思います。

崖下に家を建てる場合、現実的な方法としては下記の3つの方法が考えられます。

1.崖から十分に距離をとる。
  (崖の上端から、崖の高さの2倍以上の距離をとる)

2.崖と建物の間に土砂を受け止める土留めをつくる。

3.建物内への土砂の流入を食い止める壁を鉄筋コンクリート造等でつくる。

その他にも、擁壁を設置する方法もありますが、工事費がかなりかかるので、ひとつの住宅を建てるためにそこまでお金を掛けるのは難しいと思います。

この敷地の場合は、建てられる平らな部分が狭いので、崖から十分に距離をとることはできません。敷地の外になってしまいます。
また、距離がないことから崖と建物の間に土留めを設けることもできません。

そのため、上記3番の建物内への土砂の流入を食い止める壁をつくる
方法を採用し、がけに面した壁を桁下高さまで鉄筋コンクリート造としました。

崖が崩れたとしても、このコンクリートの壁で受け止めるようになっています。

写真左側の色がグレーの部分が鉄筋コンクリート造の壁です。このコンクリートの壁で、崖が崩れた際には土砂が家の中に入ってくるのを防ぎます。


このコンクリートの壁は土砂の建物内への流入を止めるためのものなので、このコンクリート壁には窓等の開口部をつくることは出来ません。窓をつくったら、崖が崩れたとき土砂が家の中に入ってきてしまうためです。
ただしその範囲は土砂を受ける部分なので、このコンクリート壁の上は窓をつくれます。

あきる野M邸 断面図
あきる野M邸 断面図

大工さんの仕事

東側の見晴らしが良い

リビングから東側をみたところ。目の前は道路で、道路の向こう側も崖で下がっているため、眺めはとても良いです。

大工さんの軒先現寸図

私が作図した屋根先端の詳細図を基に、大工さんが合板に現寸図を描いているところ。この現寸図に垂木を載せて加工のための線を垂木に写して、垂木先端の加工をしていきます。

垂木軒先部分

加工して桁上に設置した垂木。先端が鋭角になっている部分が、現場で大工さんが加工したところです。
屋根の勾配は、結設計では珍しい4寸5分勾配。

幣串


「幣串」
を飾って建て方作業終了です。
幣串(へいごし・へいぐし)について知りたい方は、過去記事▷「幣串」をご覧ください。(加藤)

後日追記
完成した「あきる野の家」の紹介記事を設計事例に掲載しました。
こちらも是非ご覧ください。


設計では何をするのか・間取り計画で着目と工夫した点「国立の家」

住まいが間取り計画で全く違ってしまうということを、先日の内覧会の報告を兼ねてお話します。

内覧会の終り頃、建て主さんが参考にと、この住宅になる前、他所から提案頂いた別の案を複数見せて頂きました。
それを外郭の間取りだけですが見比べ、是非ではなく、同じ条件でも、解釈や優先順位の付け方で、基本的なことが如何に違ってくるか、比較してみたいと思います。

住宅を建てる前の敷地の様子。北側道路の間口6.6mの敷地で、南北に長く、道路から6m程の奥が1.2m高くなっています。
北側道路の間口6.6mの敷地で、南北に長く、道路から6m程の奥が1.2m高くなっています。

上の図が南隣地の建売住宅を含んだ敷地図で、対象敷地が内覧会の家の敷地です

「設計とは与えられた条件内で最適解を得るための配慮と工夫である」と私たちは考えます。(配慮事項は“私たちの考え方”の▷設計作法(デザインルール)参照

設計条件は、敷地内外の形状や近隣状況、予算、居住者の要望、社会や時代状況、法規制、等々含みます。
プロなら誰が設計しても同じようになるだろう、と思われがちです。しかし実際比べてみると千差万別で、そこに住宅設計の妙味があります。違いを生みだすのは、設計者のスタンスはもちろん、条件内での理想を求める探求の度合い、経験や価値観、嗜好や見識による発想の違い、与条件の解釈の仕方と読み込む深さや優先順位、解決のための工夫等で変わります。
今回内覧会を行った「国立の家」の場合、敷地が段差のある特殊な形状で、嗜好が入りにくい厳しい要素があったので、予算が同じなら、設計は誰がしても似たような案になるのでは、とも思えたのですが。

 

南隣家の二軒の建売住宅用の敷地が整備された写真で、そのブロックの手前がこちらの対象敷地です。 尚、私どもが提案を考える段階ではどんな建物が建つか不明でしたが、南敷地の広さから総二階建てがこちらの境界近くまで寄せて建つだろうということは予測できました。

〇他からの提案1

他の方から提案された3階建て間取りを私どもがスケッチしました。表示は主な部分だけ記載しています。

北側道路側に二台分の駐車場を用意し、土工事に余分な費用をかけないよう、建物を南に寄せて高い地盤に建てる考え方です。南隣家からのプライバシー保護及び道路からのバリアーフリーは諦め、1階に居間食堂と4.5畳のデッキを設け、2階に陽の入るセカンドリビングを配したところが特徴的です。3階に西側天井の下がった小屋裏収納を配し、各室の収納不足を補おうとする案のようです。

〇他の提案2

中庭が欲しいとの建て主の新たな要望に、提案してきたのが下のスケッチの間取りだったようです。

やはり低い土地に二台分の駐車場を設け、建物は数段外階段を上った高い土地に、南隣家から覗かれないよう南境界に寄せた総二階建てのようです。南の陽光は諦め、東側開放のコの字型のデッキスペースを4.5畳分の広さに設け、東から陽光を得る考え方です。この他の設計者にも案を求めても、似たような案だったようです。このように他の案を見ると、陽光を得ようとする優先順位は設計者によって大きく異なることがよく分かります。

〇提案3(私たちの案)

駐車場は、地下扱いの開放された車庫と道路までの縦列駐車で二台分確保した、地下階入りの玄関です。一階は高い地盤にさらに1mほど高い基礎で、地下階にのせた床のレベルと合わせました。東側開放のコの字型の中庭を12,5畳ほど確保し、南側に平屋の客室を寄せ、その屋根越しに冬至の陽光が居間食堂に入る、地下一階地上二階建て案です。

敷地半ばの1.2mの段差に着目し、高い地盤からさらに1.0mほどの高基礎の1階とすることで、地下車庫を含めた三層建ての建築が可能にしました。各階に将来用のエレベータースペースを設け、道路からのバリアーフリーの可能性を残し、南側の客室は平屋にすることで、南隣家の二階からの視線を遮りつつ、冬至の陽光を屋根越しに居間に入れることも可能にしました。

私たちが設計で何をするか・着目と配慮した点と工夫した点

・南隣地に建った建売住宅の二階窓と、北側道路から6m付近の敷地中央部の1mほどの高低差に着目しました。

対象敷地は手前の擁壁ブロック辺りから南が1m程高くなっています。

・建物位置を道路側に寄せて南側に庭を取り、道路レベルに合わせて総3階建てとすると、土の掘削量が多くなりコストアップが予想されます。それと上の写真にある南隣家からプライバシーを確保するためには、南隣家際に5m程の高い目隠し塀を必要とし、コストアップとなります。庭も住まいの一階も殆どが日影になると予想されます。かと言って低い道路側を駐車スペースにし、南の高い敷地に建てると南から陽ざしの入らない住まいになってしまいます。

敷地から北側道路方向の風景で、道路の向こう側も地盤は高くなっていることが見て取れます。

・単純な間取りや階層構成では問題を解消できないと考え、敷地状況や依頼条件および法的規制を考慮して、各スペースの面積配分と理想的全体構成をよく検討して、道路際の駐車スペースの上を活用することとしました。その上で全体予算との関係で空間構成をどうするべきかを検討を重ねていきました。敷地周囲の各住宅の敷地も道路より1.2mほど高くなっていることが見てとれ、そこを上手に活用しようと思いました。

北側の道路向こうに緑が多く借景に活用できそうです。

・建物の壁面の北端まで高い地盤面の擁壁を延長して建物の東西を囲い、平均地盤面を可能な限り高く設定し、車庫スペースを地下室扱いにすることで、三層ではあっても、施工単価アップ仕様となる3階建て建築は回避しました。

駐車スペースは当初予算削減のためシャッターのない開放車庫とし、玄関も地下入りです。車庫の奥行きは上の階の間仕切りに合わせ、高い敷地を少し削って、道路から縦列で二台分を確保しました。上の階の保温のため車庫天井と周囲のコンクリート壁を上から60㎝分の高さを、コンクリートと似た仕上げの素材の断熱材を探して覆ったため、壁の途中に段差が生じています。

・車庫と玄関を地下化することで地下1階、地上2階建てとし、居間、食堂、キッチンは二層目の一階に設けました。

一階は道路より1.2m高い地盤にさらに1m程の高基礎としたレベルにあり、そのため1階の窓が南隣家のアプローチを通る人から覗かれません。その上の2階には個室・寝室・納戸を配しています。建物形態の全体的意匠操作は、敷地形状や法規制に抗わず導かれるままに決めました。

・次に、各階で適切となる位置に階段とその脇に将来用エレベータースペース(バリアーフリー)を確保しました。

階段は風通しの良い、蹴込み板のない階段ととしていて、階段の脇が将来用のエレベータースぺースとして確保したスタディーコーナーで、地階と2階は収納にしています。

・居間と連続する階に、中庭を囲うように客室へ通じる廊下を設け、そこに洗面浴室等の水回りを配しています。

向こうが居間で左が水回りとパントリー、右が中庭で、壁厚を利用して本棚を仕込んでいます。

・客室を一階の南境界に寄せて、居間・食堂との間に中庭を設け、客室の屋根越しに陽光が入る配置にしました。

二層部分の一階は高基礎として、三層部分の二層目にあたる一階レベルに合わせ、客室は平屋にして、屋根を南隣家の窓から居間が見えない、かつ冬至の陽光が屋根越しに入る高さとしています。中庭の広さを3間×3間に満たなかったので、東側を開放したコの字型の中庭とし、その殆どをデッキスペースにし、解放された境界はウッドフェンスを立て、前に植栽を施しました。

・居間と中庭が一体化するように床レベルを合わせ、冬至でも日差しがたっぷり入り、植栽も目に入ってきます。

夏は居間の上の階のベランダで陽射しは遮られ、中には入りません。このように日差しに対するこだわりは、他の計画を拝見すると、設計者によって大きな違いが出る要素かもしれません。

・居間の天井を高めにするため、その上の二階の子供室をその2階レベルより80㎝程持ち上げ、その個室への階段の段板間を透かし、1階と2階の気配の感じ合う仕掛けにしています。

食卓には東の窓から朝日が差し、北側の窓は熱損失が大きいので、小さめのピクチャーウインドウとし、道路向かいの緑を借景にして、暮らしに彩を与えらればいいかと思っています。

・2階は中庭を見下ろすように東から陽光が入る寝室と、南からも陽が入る子供室を配しています。

子供室のベランダから下の中庭を見た情景です。


・要望実現の工夫のため着目と検討工夫及び試行錯誤した事項:地下と2階建て部分の基礎の設定と断熱方法、駐車場のコンクリート打ち放しと断熱材処理、地階の界壁仕上げと断熱仕様、駐車場幅、外壁と開口部の仕様と形状、90㎝有効幅の階段と構成方法、床・壁の仕上げ材、本棚、洗面台と窓採光とメディシン及び収納、駐輪場の囲い壁と屋根中止、雨水の駐車場や中庭の排水の仕方、室外機置場、冷蔵庫置き場、照明計画、表札、宅配ボックス、等々。
・この他、工事費低減のため、構造、仕様、防犯、冷暖房、設備、開口部、等々も試行錯誤しながら見直しました。

・今回の計画を通して次のことに気づかされました。条件の優先順位の付け方で間取りが大きく違ってくることは分かっても、その重要度合いまでは理解できず進めざるを得ない方や、さらに最適なプランにたどり着く手立てがなく諦めざるを得ない方が少なくない、ということです。それと土地探しもさることながら土地を決める時に専門家からのアドバイスがあると、もっと工事費用を軽減できる土地が得られ、適切で豊かな住まいをもう少し容易に得られる可能性がある、ということです。私どもも今後は設計だけでなく、土地を探しと、間取りを丁寧に考えることの大切さ広く理解していただくためにプロとしての支援も考えてみようかと思います。(藤原)